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野球浪漫2019

日本ハム・西村天裕 どん底から夢のマウンドへ 「ケガをしたことは遠回りとは思っていない。むしろプロで長く活躍するための大切な時間だった」

 

ドラフト19日前に悲劇で、天国から地獄へ突き落とされた男は、不屈の精神で表舞台にカムバックした。苦難の道でも挫けることなく、これも自分の運命と笑顔で受け入れる強さを身に着け、夢だったプロ野球の世界で奮闘を続けている。
文=井上陽介(スポーツライター) 写真=BBM、井上陽介


ドラフト直前の悪夢


 和歌山県で生まれた西村天裕はいつも明るく、温かみのある紀州弁と豊かな表情で周囲の心をグッとつかむ。野球人生で経験した大きな挫折が、生まれ持った人間性にも深みをもたらしているように思える。

 4年前の2015年10月4日。ドラフト上位候補の最速154キロ右腕は絶望と戦っていた。「なんで切れんねん」。ベッドの上で左ヒザをアイシングしながらつぶやいた。前日のサーティーフォー相模原球場で行われた首都大学野球の秋季リーグ戦。帝京大のエースとして、桜美林大との1回戦の先発を託された。相手先発は、その年のドラフトでロッテから1位指名された佐々木千隼。息詰まる投手戦は8回まで両軍無得点。そして、9回表に明暗が分かれることになる。

 西村は先頭打者の出塁を許し、無死一塁。桜美林大は先制点を奪うため、送りバントで好機拡大を狙ってきた。ただ、2連続で失敗。追い込まれた相手はヒットエンドランに切り替えてきた。一塁走者のスタートを合図に、打者はゴロをショートへ打った。二塁封殺は難しいタイミングだったが、遊撃手は併殺を狙って二塁へ送球。それが悪送球となってしまい、外野へ転がったボールを右翼手が三塁に送球したが、またも悪送球。その間に一塁走者が一気に決勝のホームを踏んだ陰で、西村は前のめりで倒れ込んでいた。

「ショートがセカンドにパッと投げた。僕はゲッツーだと思って、ファーストの後ろにカバーに走るじゃないですか。でも、ライトに暴投になったから僕は次にすぐにサードへ向けて走り出したんです。カバーに行くためにね。それでライトは放らなくていいのに投げたんですよ。そしたら、それも暴投で。サードがグラブで止めにいって弾いたボールが僕のところに飛んできて。切り返そうとしたときにスパイクの裏金が走路に食い込んでしまって、そのまま体が持っていかれて……」

 左ヒザ前十字じん帯損傷。「担架で運ばれてるときも足がプランプラン。トレーナーさんの顔を見たらハッとなっていて。そのときは『大丈夫やから』と言うけど、これはやべぇヤツなんだな」と直感的に自分でも分かって。全治6カ月の重傷。運命のドラフト会議まで、あと19日に迫った時期での非情な現実だった。

 西村の元にはすでに12球団から調査書が届いていた。1球団ずつ丁寧に記入。ケガをする前に9球団へ返信を終えていた。「だから、残り3枚には前十字じん帯損傷って書きました。故障歴のところに」。現実を受け入れるしかなかった。

 失意を抱えたまま迎えたドラフト会議当日。チームメートでダブルエースを張っていた青柳晃洋とともに、大学内に用意された会見場で指名を待った。ただ、西村の名前は・・・

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