試合終盤、1点が欲しい場面の代走として塁上で駆け回る“走りの切り札”だった。チームの誰もが信頼する足で、勝ちを呼び込んだ。しかし、そこまでの道のりは試練ばかり。来季へ向け足だけでなく、攻守走すべてでアピールしレギュラー獲得を強く誓っている。 文=田中政行(デイリースポーツ) 写真=大泉謙也、前島進、梅原沙織 背中を押した監督の言葉
ふとした瞬間、タイムスリップするときがある。大観衆が包む甲子園球場のグラウンドに立ち、不思議な感覚に襲われるときがあるという。目を閉じれば夢を抱いた少年時代が脳裏に浮かぶ。プロ5年目の23歳。まだあどけなさの残る表情で、
植田海は等身大の自分を隠さなかった。
「今でも一軍の試合に出てるときに、変な感じになることがあるんですよ。小さいころからテレビで見ていたグラウンド、ユニフォームを着て試合に出ている。そんなときに、不思議な感覚になることがあるんです」 “あの試合”もそうだ。激戦を制したナインの輪で植田の笑顔が輝いた。10月7日、
DeNAとのCSファーストステージ第3戦(横浜)。ファイナルステージ出場権を勝ち取った“神走塁”に、若虎の成長と来シーズンの確かな希望が見えた。
「今年はほとんど接戦で試合に出ることが多かったんですけど、緊張感があった中で走塁、盗塁をすることができた。昨年より数は減ったんですけど1個、1個の質は昨年よりも良かったと思うんです」。今季は2年連続で全試合に一軍帯同した。81試合の出場で12盗塁と昨季から数字は落としたが、86%あった盗塁成功率を含めて勝負どころでの活躍が光った。
矢野燿大監督も言う。「海(植田海)の走塁で勝った試合が何試合もあった」。象徴的だったのがこの試合だ。同点で迎えた8回一死から
高山俊がエスコバーに死球を受けた。指揮官は迷わず代走・植田を送り出した。小走りで一塁に向かう。脳裏には前日の記憶がフラッシュバックした・・・
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