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野球浪漫2020

中日・福谷浩司 完投の価値 「その場しのぎで頑張るけど、何をしたらいいか分からなかった」

 

昨年発症した椎間板ヘルニアの影響もあり、開幕は二軍スタートとなった。それでも7月下旬に戻ってくると、抜群の安定感でチームの勝利に貢献した。戦力外も覚悟したという苦悩の日々から、運命の出会いを経て、再び輝きを取り戻している。
文=島田明(中日スポーツ) 写真=松村真行、榎本郁也、桜井ひとし、BBM


初めての涙


 込み上げてくるものを抑えることができなかった。マウンドを降り、ベンチへ戻ろうとすると、目から涙があふれ出た。福谷浩司は帽子を取り、顔を覆う。スタンドからは熱投に対するねぎらいの拍手が注がれたが、涙は止まらなかった。9月3日の広島戦(ナゴヤドーム)。8回一死まで無失点に抑えていたが、足が悲鳴を上げた。一、二塁のピンチで広島の主砲、鈴木誠也は何とか抑えた。ただ、ベンチはこれ以上投げさせると危ないと判断。交代を告げられた。涙はそのときにほおを伝った。

 実はプロに入って、福谷がグラウンドで涙を流したのは初めてだった。そのため、「自分でもビックリしました」というのが本音だった。プロに入ってどころではない。物心ついてから、野球をしていての涙は記憶になかった。

「小さいころから父親にグラウンドでは涙を見せるなと言われていました。それから本当に1回も泣いてなかったんです。(泣いたのは)何十年ぶりだったんですよね」

 チームは広島の反撃をしのぎ勝利した。ヒーローとして上がったお立ち台では、「完投できると思っていたので悔しい。情けない姿を見せてしまいました」と話した。

 試合後は多くを語らなかったが、後日、あらためて聞くと・・・

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