来季不惑を迎える。チーム最年長。一昨年は鳥谷敬。今季限りで福留孝介、能見篤史、藤川球児がチームを去る。世代交代が進むチームの中で、優勝に導くべく、まい進することを誓った。「まだやめられない……」。やり残したことがあるのだ。 文=田中政行(デイリースポーツ) 写真=毛受亮介、BBM 思い出のアルプスから力を
迷ったとき、立ち止まったとき、
糸井嘉男は一人、誰もいないスタンドに座る。2020年のシーズン開幕前もそうだった。追想と原点回帰の大切な時間。目を閉じれば自然と幼少期の記憶がよみがえってくる。
「昔を思い出しながらね。ここは俺の原点の場所やから。だから、いつもこの階段を走ってるんよ」 京都で過ごした小学生のころ、父・義人さんに連れられ、初めて聖地に足を踏み入れた。甲子園球場のアルプススタンド。胸が躍る。一番・
真弓明信の本塁打を見た。カクテル光線を浴びながら放物線を描く白球。夢はあこがれ、あこがれは目標に変わった。
節目、節目で立ち返る場所。2003年もそうだった。自由枠で
日本ハムに入団が決まった後、アルプススタンドで
阪神戦を見た。
金本知憲(前監督)の弾丸ライナーに衝撃を覚えた記憶が残る。小学生と大学生。2度行った甲子園球場で見た2本のアーチが今も戦う原点だった。
◎
「最高です。やっぱりあそこが埋まると盛り上がりますね」。9月22日の
DeNA戦。今季初めて立ったお立ち台からアルプススタンドに手を振った。大声援を背に受け、打席に立ったのは9回だった。一死二、三塁。「ここしかない場面」に、狙いを直球1本に絞って待った。
DeNA・
石田健大が1-1から投じた3球目、内寄り143キロを狙った。鋭く右中間に抜けた打球で一気に2人が生還。今季3度目の決勝打だけじゃない。1点差の6回には一死一、二塁で
山崎康晃から同点打。151キロの直球を左前にはじき返した。2戦連続のマルチ安打で今季3度目の猛打賞。3打点は昨年7月以来だった。終盤は尻上がりに調子を上げた。ただ、左足首の手術から完全復活を誓った1年は、スタメンを外れる日が多かったのも事実だ。
「数字も残せていない。それは自分の責任。やっぱり悔しいし、自分を責める日もある。諦めたりする気持ちが出てきそうになるけど、朝、また『ヨシッ』ってやってます」 逆境に立ち向かい続けた1年に、自然と若いころの記憶がよみがえってくる。振り返れば夢をかなえるまで、順風満帆だったわけじゃない。
近大入学直後に右肩を手術した。「終わった、もう野球をやめようとも思った」。失意のまま手術室に向かう途中、・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン