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野球浪漫2021

ロッテ・佐々木千隼 君のそばに 「頑張らないといけない。 人生とはそのようなものだなって」

 

打たれ、そして敗れる中で覚えた怖さが自信を奪っていく。失意に暮れ、あきらめたかけた。そんな中で胸に刺さった1つの曲に込められた歌詞が教えてくれた。前を向く限り、何度でもスタートは切れる。チャンスは自分のそばにある、と──。
文=梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報室) 写真=桜井ひとし、BBM

目の前のボールを握り続ける限り、チャンスはある


伴ってきた自信


 ふと耳に入ってきた曲があった。偶然、聞いたその曲の歌詞は、スッと自然と大学時代の佐々木千隼の耳に入ってきた。

 自宅でボウッとしていたときだった。

『どんな時も 信じることをやめないで きっと チャンスは何度でも 君のそばに』

 聞き終わると自問自答を繰り返した。あきらめそうになる心と向き合い、もう一度、挑戦することを決めた。

「大学2年のときですね。全然勝てなかった。歯が立たなくて、自分にも自信がなくて、そんな落ち込んでいるときに偶然、この曲を聞いたんです。試合で負けても、野球がまったくうまくいかなくても、頑張らないといけない。人生とはそのようなものだなって。奮い立たせてもらいました」

 馬場俊英さんの『スタートライン〜新しい風』。その歌詞は佐々木にとっての人生そのものに感じた。自分を信じ続け、そしてチャンスはまだあると、いつも前を向いた。曲の歌詞と同じ想いがいつも自分で自分を励ましていた。



 野球エリートではない中で挫折を繰り返し、試行錯誤しながら生きてきた。中学までは軟式野球部。高校では一塁と外野手として都立・日野高で名門私立校を倒そうと奮闘した。高校2年の冬、東京都選抜メンバーの一員として意気揚々と向かったロサンゼルス遠征。そこでレベルの差を痛感させられた。ひと際、目についたのが現広島鈴木誠也(二松学舎大付高)だった。どこまでも飛んでいくボールに、自分がちっぽけな存在に感じた。同じ年とは思えなかった。差は歴然。その背中はキラキラと輝いて見えた。

「高校生とは思えなかった。化け物。直接見て、レベルの違いを感じました」

 天と地の差。だからこそ、さらに野球を極めて、不可能に挑戦したいという想いを抱いた。それは生まれながらの負けん気の強さからくるものであり、目の前で見た鈴木誠也という同い年のスーパースターに刺激を受けたものでもあった。桜美林大に入ると、本格的に投手としてマウンドに上がるようになる。しかし、球種も少なく、なかなかうまくはいかなった。

 2年時、チームが一部昇格をすると、なおさら力の差を感じた。負けるのが、打たれるのが怖く、どうしようもなくつらかった。自信はなくなり、何度もあきらめようかと思った。

 そんな逃げ出そうとしたときに『スタートライン〜新しい風』が耳に入ってきた。この曲は『もうダメさ これ以上は前に進めない。そんな日が誰にだってある』の詩から始まる。もともと知っている曲だったが、心が折れそうなときに聞くと、歌詞の一つひとつが胸に響くようだった。励ましてくれているように聞こえた。

 ハッとさせられた。大学生活はまだ半分も終わったわけではない。自分を信じ、練習の虫となることを決意した。今まで積極的ではなかったウエート・トレーニングにも挑戦した。その後も挫折しそうになると、この曲を聞いて自分を励ました。そして大学3年になると頭角を現すようになる。

 大学では2人のプロ経験のあるコーチと出会った。一人が・・・

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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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