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野球浪漫2021

ヤクルト・原樹理 何度でも這い上がれ! 「自分でやれることをやってダメだったら、身を引く覚悟もありました」

 

ドラフト1位という大きな期待の中、故障に見舞われ結果を出せなかった。精神的に苦しい時期もあったが、原樹理の心には、一切の傷も曇りもない。責任も、重圧も、歯がゆい思いも、すべてを力に変えられる強さがある。いつでも、どんなときも苦境から立ち上がってきた。かつてのドライチ右腕も、昨季最下位のチームも、ここから這い上がる。
文=菊田康彦 写真=桜井ひとし、BBM

8月29日のDeNA戦[東京ドーム]に先発し7回無失点で今季初勝利。7回二死で桑原将志から三振を奪い、雄たけびを上げた


大きな白星


「ケガだったり、いろんなことがあってすごく苦しい期間がとても長かったんですけど、こういう日のために頑張ってきたんだな、こういうファンの皆さんに声援をもらうために頑張ってこれて良かったなというふうに、今すごくホッとしてます」

 396日ぶりの勝利を挙げ、“本拠地”東京ドームのお立ち台で原樹理が口にしたその言葉は、何とも言えぬ感慨に満ちていた。

 東京オリンピック・パラリンピック開催に伴って神宮球場を離れ、仮住まいの東京ドームで行われた8月29日のDeNA戦。今季2度目の先発マウンドに上がった原は、初回に迎えた一死一、二塁のピンチを冷静に切り抜けると、その後も7回までスコアボードに「0」を並べ続けた。

 DeNAの先発はプロ入り同期のサウスポー・今永昇太。今から6年前の東都大学秋季リーグ入れ替え戦で、東洋大4年の原が投げ合った駒大のエースであり、ともにドラフト1位で入団した2016年はお互いになかなか初勝利に手が届かず、LINEで励まし合った仲でもある。

 17年7月17日の横浜での対戦以来、プロでは2度目となる投げ合いを意識しないはずはなかったが、「負けたくないっていうよりは、まず自分のことで精いっぱいでした。そもそもの話、僕と彼では全然、実績だったりそういうものが違い過ぎるので」と、自分のピッチングをすることだけを心掛けた。

 1対0で迎えた7回表、二死二塁の場面では、一番の桑原将志を2ボール2ストライクから外のスライダーで空振り三振。最大の勝負どころを抑え、「自然と気持ちが入ってたのかな」とこぶしを握り、雄たけびを上げる。

 今永が6回1失点でマウンドを降りたあとの7回裏には、原と同い年の塩見泰隆が勝利を決定づける3ラン。4年前の直接対決で敗れた借りを返す格好となった白星は、原にとってはそれ以上に、大きな意味を持つものであった──。

 2人の兄のあとを追うように、原が野球を始めたのは小学生のとき。野球を見るのが好きだったという声楽家の父・敏行さんは、子どもたちがやると決めたことに対してはあと押しを惜しまなかった。

「子どもたちがやりたいことは存分にやらせるっていう方針だったみたいです。親が子どもにやることを押し付けないっていうか、それはいずれ子どもの逃げ道になっちゃうから、自分で選ばせて責任を持ってやらせるという、自己管理、自己責任みたいなところがありました」

 高校は名門・東洋大姫路高(兵庫)に進み、3年夏の甲子園でエースとしてベスト8に進出。東洋大では1年秋に二部降格の憂き目に遭いながらも、4年秋の入れ替え戦では駒大を相手に先発2試合を含む3連投で、一部復帰に導いた。

 その入れ替え戦前に行われた15年秋のドラフト会議では・・・

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