マウンドに上がって腕を振る。計り知れない最終回の重圧の中で、相手打者に立ち向かう37歳を支えている1つの強い思い。「絶対にしたい」──。未達の夢である“その日”のため、今日もブルペンで準備する。 文=喜瀬雅則(スポーツライター) 写真=佐藤真一 
マウンドで捕手とがっちり握手。勝ち試合を締める男には、未達の夢がある
1敗の重み
ええ大人のオッサンたちが人目もはばからずに泣き、抱き合い、ビールやシャンパンを頭から掛け合って大はしゃぎする。それは、桜の咲く季節に始まり、真夏の暑さも乗り越え、枯れ葉が舞う秋までの長き闘いを経て、頂点に立った者たちだけが許される歓喜の儀式でもある。それが37歳のベテラン・
平野佳寿にとって、いまだ味わったことのない“未達の夢”でもある。
「それはしたいですね、絶対。何度でもしたいもんですね。そう思いながら16年間やってます。是が非でも優勝したいのは、プロ野球選手全員が思っていることだと思うんで、その気持ちは、みんなが一緒だと思います」 メジャー・リーグでの3年間を経て、4年ぶりに古巣・
オリックスへの復帰を果たした2021年、平野は日米通算16年目となるシーズンを迎えた。100セーブ・100ホールドという、自身を含めても6人しかいない偉業をすでに達成しており、最優秀中継ぎと最多セーブのタイトルを一度ずつ、さらにメジャーでもダイヤモンドバックスでの2年、マリナーズでの1年で計150試合に登板し9勝8セーブ。その栄光に包まれた長きキャリアの中で、まだ刻まれていない二文字がある。
それが『優勝』だ。
「普通に優勝争いをしているシーズンと、していないシーズンの最後の1カ月なんて、全然雰囲気が違いましたしね。やりがいもありましたけど、プレッシャーもありました。そういう経験が僕にとっては、ほぼほぼ、その1シーズンだけしかできていないというのは残念というか、それを何年もやってこそのプロ野球選手だとも思いますし、そういう経験を大事に、もっとこなさないといけなかったな、とは思いますけどね」 その『1シーズン』が、あと一歩で大願をつかみ損ねた7年前のことだった。14年と言えば、消費税が8%に引き上げられ、フジテレビの昼のバラエティー番組「笑っていいとも!」が31年半の歴史に幕を下ろした年。オリックスにとっては、本社創業50周年のメモリアル・イヤーでもあった。
平野はその年、8月までに球団新記録となる34セーブを挙げ、絶対的守護神として君臨していた。ブルペン陣にも、
佐藤達也(現球団広報)、
岸田護(現投手コーチ)、
馬原孝浩(現九州アジア独立リーグ・熊本投手GM)、今なおオリックスの中継ぎとして活躍する
比嘉幹貴らを擁し、7回終了時にリードしていれば「67勝2敗」という驚異的な逃げ切り態勢を築いていた。
ただ、その『2敗』は、
ソフトバンクとの優勝争いが佳境を迎えた9月に入ってからのもの。さらに『7回終了時にリード』の連勝が『60』でストップしたのは、9月8日の
楽天戦(コボスタ宮城)の9回、1点リードで登板した平野が、
松井稼頭央(現
西武二軍監督)に逆転サヨナラ2ランを許したときで、翌9日には7対7の同点で迎えた9回、
嶋基宏(現
ヤクルト)にサヨナラ打を浴びて、リリーフ転向318試合目にして初の2試合連続の黒星も喫している。
「あんまり覚えていないんで……。疲れていたんじゃないですか」 言葉少なに当時を振り返った平野だが・・・
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