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野球浪漫2021

ソフトバンク・真砂勇介 努力の先に迷いなき形 「僕は長距離砲タイプじゃありません。ホームランはヒットの延長」

 

プロ入りから、そのほとんどをファームで過ごしてきた。迎えた9年目の今シーズンが、これまでと違うものになったのは確かだ。だが、チャンスを自分のものとするには、まだ物足りない。ファンは期待して、信じている。だって彼は『ミギータ』なのだから。
文=田尻耕太郎(スポーツライター) 写真=湯浅芳昭、BBM


おまえはミギータや!


 6月5日、甲子園。スタメン発表で真砂勇介の名前は、四番の柳田悠岐に次いで球場内にアナウンスされた。

「五番、センター、真砂」

 巨大な銀傘にウグイス嬢の声が跳ね返り、広い甲子園にそのフレーズが心地よく響き渡った。プロ9年目。初めてクリーンアップを任された。阪神の先発はルーキー左腕の伊藤将司だ。3月6日のオープン戦(PayPayドーム)で対戦し本塁打を放っていたことがこの日の抜てきにつながった。

 すると、0対2で迎えた6回、その起用に応える。一死から柳田が中前打を放って一塁へ。ここで真砂は、1ストライクからの2球目を執念で外野へ弾き返した。打球が左中間を割る間に柳田が本塁へ激走して1点差。真砂は三塁まで行き、右拳を振り下ろして気合のガッツポーズを決めた。

「ギータ(柳田)さんが塁に出たので、チャンスを広げていくんだ、自分で流れを変えるんだ、という強い気持ちで打席に立ちました」

甲子園でのひと振りを含めて、違いを見せる今季。前半戦だけでキャリアハイの成績を残した


 工藤公康監督も「ちょっと暗い雰囲気だったベンチを、真砂があの一打で盛り上げた」と喜んだように、反撃の口火が切られた打線はこの回、二死から甲斐拓也に2ランが飛び出して逆転に成功。その後も毎回得点を記録して10対2と圧勝した。6戦ぶりの白星。今季の交流戦では敵地8戦目でようやくの初勝利だった。闘魂注入の一打を評価された真砂は、翌6日も五番で出場。初回に栗原陵矢の先制打のあと、二死一塁から中前打でつないだことで満塁までチャンスが広がり、甲斐の2点適時打を呼び込んだ。この2試合で放った安打は前述の2本のみだったが、価値ある場面だったことに加えて、何よりもひたむきにプレーする姿がチームメートの心をも打った。

 前半戦はチーム88試合中71試合に出場した。昨年の50試合が自己最多だったが、早くも大きく塗り替えてみせた。打席数も初めて3ケタに到達(118)し、安打数(28)や打点(8)もすでにキャリアハイだ。4月29日のPayPayドームでの日本ハム戦では左中間テラス席に今季1号のホームランを放った。これが勝利を決定づける貴重な一発で、お立ち台に呼ばれる。中村晃武田翔太に続いてマイクを握った真砂は、インタビュアーに締めのあいさつを求めらてしどろもどろに。そんな中、この日のイベントだった『どんたく博多デー』にヒントを得て、大きな声で「1、2、3、わっしょーい」と盛り上げた。鷹のムードメーカーにふさわしいパフォーマンスだったが、ファンからは不満というか寂しさの声が上がり、それは真砂の耳にも届いたという。

「何で『マッサゴー、ゴー、ゴー!』をやってくれなかったんですかって、いろんな人に言われちゃいました」

 かつて・・・

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