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野球浪漫2021

広島・宇草孔基 積み上げる“足し算”「良いときも悪いときも同じようにすることです。そうすれば、良いことが起こると思っています」

 

森下暢仁に続くドラフト2位で、大卒で昨年入団した。高校時代にはセンバツ大会最多タイの1試合5盗塁した俊足を持ち、即戦力の期待も、死球を受けて手術となる不運もあり、年間通しての一軍はまだない。それでも腐ることなく前向きに努力を積み上げてきた。定位置までの距離は、あとわずかだ。
文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=毛受亮介、宮原和也、前島 進、佐藤真一、BBM

初球から振っていく積極打法が持ち味。同時に、追い込まれれば左方向へ打つイメージで粘りを意識することにより、簡単には打ち取られなくなってきた


「いや、終わっていませんね」


 こまめにメモをとるようになった。打席での感覚、アイデア、打球方向……。系統立ててまとめるわけではない。気付きがあれば、とにかく書いていくのである。

 ドラマにでも出てきそうな現代風のルックスだが、誰もが認める真面目(まじめ)な男だ。引き算もなければ、割り算もない。かといって、一気に掛け算も求めない。一歩一歩、「足し算」で前に進みたい男である。

「今シーズンは故障もあって、悔しい1年でした。でも、自分から悪い流れを作りたくありません。良いときも悪いときも同じようにすることです。そうすれば、良いことが起こると思っています。自分の取り組みを自分で否定しないようにしています」

 プロセスで一喜一憂しない。無駄な取り組みなどない。プロ2年目の宇草孔基は、きょうも、地道に足し算で積み上げていく。

高校3年春のセンバツでは、1回戦の米子北(鳥取)戦で、大会最多タイ記録となる1試合5盗塁と、韋駄天ぶりを満天下に示した


 185cmの長身に、50メートル5秒8の俊足。茨城・常総学院高時代はU-18日本代表にも選ばれている。法大時代も侍ジャパン大学代表に名を連ねた。

 地道な積み重ねに確信を持ったのは、法大3年のことだった。不調に陥り、春季リーグで9打数1安打。そこで、それまでの足を上げるフォームから、すり足打法へのモデルチェンジに踏み切ったのだ。

「足を上げるか上げないかだけでなく、考え方もそうです。点と点が線になってつながりました。長打を捨てて出塁することを徹底しました。そうしたら、確率が上がり長打も増えるようになりました」。

 確実性か長打の二者択一ではない。何かを選ぶことは、何かを捨てることとイコールではない。成長のために、石垣をひとつひとつ積み上げるのである。

「あのとき気づきました。やるべきことは変わらない。やるべきことをやってダメなら仕方ない。絶好調と言われても、やるべきことは変わりません。逆もまた同じです。継続して、やるべきことをやるようにしています。そこから、競争が激しい中で法政大のレギュラーになれ、プロ野球の世界にも入らせていただけましたから」

 メモの是非論ではない。それは彼の「積み上げ」思考の象徴なのである。2021年シーズン、それが威力を発揮した。

 5月に一軍に昇格を果たし、交流戦では田中将大(楽天)からプロ初本塁打を放つなど活躍は見せたが、層の厚い外野陣にあって、宇草は7月以降、二軍生活を余儀なくされていた。

「悔しい1年でした。いや、終わっていませんね」

 そんな言葉を聞いたのが9月中旬のことだった。鈴木誠也西川龍馬松山竜平長野久義。強力なラインアップを横目に、ファーム主体のフェニックス・リーグの予定も発表され始めた時期だった。

 積み上げる男は、ここから力を発揮した。10月5日の中日戦(バンテリン)で・・・

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