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野球浪漫2022

ヤクルト・奥村展征 冷めることのない情熱「チームが同じ方向を向いて勝っていくことが大事。そのために必要なことを全力でやる」

 

グラウンドに響き渡る仲間を鼓舞する声──。無類の明るさがチームをさらに勢いづける。出場数はわずかだが、勝利への貢献度は計り知れない。しかし、目指してきた最終地点はここではない。「今年こそ」の思いで、ポジションをつかむための日々が続く。
文=菊田康彦(スポーツライター) 写真=高塩隆、桜井ひとし、牛島寿人、BBM

誰よりも元気にグラウンドを駆ける、その姿はまさに野球小僧。チームにとって必要不可欠なムードメーカーだ


勝利のために何ができるか


 左翼手が差し出したグラブをかすめた打球が転々とする間に、同点の走者に続いて逆転のランナーもホームに滑り込む。三塁側ベンチ前に飛び出していた奥村展征はこれを見届けると、両手を上げながら快哉を叫んだ。

 5月8日の巨人戦(東京ドーム)で、9回表に飛び出した山崎晃大朗の逆転二塁打。奥村自身はこの日も出番はなかったものの、まるで我がことのように、いや、それ以上の喜びを表した。

 今シーズン、ここまでの出番は途中出場の5試合のみ(5月12日現在)。たとえグラウンドに立っていなくとも、ベンチから大声を上げ、仲間を鼓舞する姿が目に付く。

「求められてる気がしてるんで、勝手にやってます。それ要員じゃないかっていうぐらいの感じなんで(笑)。でも、大事なことかなと思ってます」

 プロ9年目、5月26日で27歳になる奥村は、自らの“役割”についてそう語る。試合に出たいのはやまやまだが、現状ではヤクルトの内野の起用法はほぼ固定されている。そのなかでどうすればチームの力になれるか──。常にそれを念頭に置いている。

「チームに何が必要かっていうところをしっかり考えて、その場その場で必要なピースになっていかないといけないと思ってます。与えられるもの(役割)もあると思うんですけど、自分から探りながら見つけていけるように、やってるところですね」

 4月27日からの5連勝、そして巨人を3タテして今季初の単独首位に躍り出た5月6日からの3連戦でも、試合前の円陣で声出しを任された。時に3分を超える“長尺”のなか、オーバーアクションと絶叫で笑いを誘いながら、全身全霊でチームを盛り上げた。

「僕の原点は高校野球やと思ってて、高校生がやりそうな声出しをしてる感じですね。『一戦必勝! 目の前の一球にすべてをかける!!』みたいな。チームが盛り上がって、みんなが同じ方向を向いて勝っていくってことが大事やと思うんで、そのために必要なことを全力でやってる感じです。あくまでも真面目風に、ですが(笑)」

 昨年は3年ぶりの開幕ベンチ入りも、4月下旬に登録を抹消されると、その後は一軍出場なし。6年ぶりのリーグ優勝、そして20年ぶりの日本一の歓喜に沸くナインの姿を、テレビの画面越しに見つめるしかなかった。

「メッチャ悔しかったです。もちろんうれしい気持ちもあったんですけど……半々ぐらいですかね。だから、『今年こそは』っていうのがモチベーションになってます」

 今年の目標は、何としてもあの歓喜の輪に加わること。さらに、大いなる“野望”も胸の内に秘めている。

 奥村は1995年5月26日に滋賀県甲西町(現湖南市)で生まれた。祖父の奥村展三は県立甲賀高(現県立水口高)を野球部監督として甲子園に導き、のちに県議会議員、国会議員を歴任。父の伸一は県立甲西高時代に捕手として甲子園に2回出場し、近大、プリンスホテルで内野手としてプレーした後、母校の甲西高で監督を務めた。

 そんな「野球一家」に生まれた奥村は・・・

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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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