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野球浪漫2022

ソフトバンク・牧原大成 わが使命、わが誇り 「僕は育成からはい上がってきた人間」

 

現チームで話題の男、『ジョーカー』。ジョーカーとは、最高の切り札とも言われ、時に最強の力を発揮して勝ちをもたらす。レギュラーを獲ることだけが、すべてではない。唯一無二の存在価値を見いだし、今日も出番を待つ。
文=田尻耕太郎(スポーツライター) 写真=湯浅芳昭、BBM


キングのジョーカー


 鷹の爆走王。牧原大成が打席に向かうとき、PayPayドームの巨大なホークスビジョンにはそんな登場演出が映し出される。だが、熱き鷹党たちにはこのニックネームのほうが浸透しているはずだ。

『ジョーカー』

 認知度を高めたのは、牧原自身がそれを発信し始めたからだった。交流戦初戦だった5月24日のDeNA戦(横浜)。7回表、1点を追う場面に代打で出場して同点適時打を放つと、球団広報を通じてこんな談話を寄せた。

「代打での出場で、とにかく甘いボールがきたら積極的にスイングを仕掛けようと打席に入りました。とにかく同点の一打となり良かったです。自分の役割を果たすことができたと思います。byジョーカー」

 その後、27日〜29日にPayPayドームで行われた広島戦では計13打数7安打の大暴れ。3戦連続打点に加えて2試合連続アーチと連日ダイヤモンドを駆け回り、初戦と3戦目にはお立ち台に上がった。そして大勢のファンの前で、ちょっと照れながら自らの声で「byジョーカー」とヒーローインタビューを締めくくり、拍手喝采を浴びたのだった。

 トランプの中に含まれる特別なカードであるジョーカー。役割は非常に多様で、ゲームによっては最も重要な万能カードとして重宝される。すなわち、手札にジョーカーを持つことが勝利の近道となるわけだ。

 だから、名付け親がチームを率いる藤本博史監督だったのも納得だ。その重要性を強調するように最高位の称号も付け加えて「牧原はキングのジョーカーですよ」と存在価値を評している。

 牧原も、それに呼応する。

「何でもできるから、そう言ってもらえる。だから気に入っていますよ。期待してもらっているわけだし、恥じない活躍をしないといけない」

 6月22日時点で日程消化はまだシーズンの半分未満。それでも今季先発出場した試合では一、二、三、五、六、七番と6つの打順を任されている。守備位置も二塁、三塁、遊撃、中堅と多彩で、1試合の中で複数ポジションを守ることも珍しくない。代打、代走、そして守備固めからの出番もあった。藤本監督の本来の構想は「代打の切り札」。しかし、故障者が続出したことに加えて、何よりも牧原自身が「スタメンで使いたい」と思わせる結果を示したことで風向きは確実に変わった。

 5月は53打数24安打で打率.453を記録。一部時期も重なる交流戦の打率.383(60打数23安打)は、全体2位の好成績だ。首位打者には惜しくも8厘及ばなかったが、チームの中心的存在として活躍した。

 そんな好調のおかげもあって口も滑らかなのだろう。普段の牧原は「byジョーカー」というようなジョークを軽く飛ばすタイプではない。

「いや、今も自信がついたわけじゃないですよ。数字(成績)も意識はしていないです。自分はポジションが決まっているわけではないから、レギュラーを獲ったという気持ちもない。チームや監督から任された自分の役割に対して必死にやる。それだけです」

 わずかな隙や緩みが命取りになる。そう言わんばかりの緊張感が・・・

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