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野球浪漫2022

オリックス・小田裕也 出番はいつでも── 「ダメだったら終わる。そんな覚悟、危機感は常に持っています」

 

代走に守備固め。勝負を左右する試合終盤に訪れる出番に向けて準備に余念はない。先発での出場が少なくとも確かな“戦力”であることは、自らのプレーで示してきた。背番号50は客観的に自らを見つめ、必要とされるそのときを待っている。
文=真柴健 写真=佐藤真一


覚悟と危機感


 一度は曇った神戸が一気に晴れた。右翼席への着弾を確信すると、ベンチのナイン、スタンド全体が両手を突き上げ「V」をつくる。普段はクールな男も、このときばかりは目尻をくしゃくしゃにして喜び、歓喜のベンチ前で首にかけられた『マッチョマンダンベル』でパワー炸裂。小田裕也の“打ち直し弾”は、野球人生そのものだった。

 7月10日のロッテ戦(ほっと神戸)、8回一死二塁で打席へ。登場曲であるWANIMAの『CHARM』でリズムに乗ると、初球の内角に来た152キロの直球を右翼ポール際へ飛ばした。

「感触としては、ちょっと詰まっていた。ライトのライン際に、良い感じで飛んだから『早く落ちてくれ』と。ファウルになると感じたので、フェアゾーンに……と思っていたらスタンドまで。思っていたより飛んでいましたね」

 飛距離が出た分、ボールが切れ、わずかにファウル。騒然とする中で小田は冷静に打撃手袋を締め直した。拾い直したバットを構えた2球目──。内角150キロを、またもとらえてライトポール際へ。

「あ、飛んだ……」

 今度は右か、左か。外野席のファンは大喜び。一瞬で理解できた。渾身の今季初安打は1号2ランだった。

 笑みをこぼしながらダイヤモンドを回ると、ナインから手荒い祝福を受けた。リプレー映像を見ているかのような“打ち直し弾”にも「もちろん、ホームランを狙って打ってないから」と笑う。

「同じコースに反応して打てた。力感が良かったです。欲を出さず、強振せず、コンパクトに」。さらりと並べる言葉と同時に、黄昏(たそがれ)に情熱が帯びる。



 今から9年前の2013年10月24日。吉報が届くはずの待合室で、小田が立ち上がることはなかった。巨人のドラフト1巡目に小林誠司、ロッテの1巡目に柿田裕太、同4順目に吉原正平、5巡目に井上晴哉……。同じ釜の飯を食った5人で見届けたドラフト会議。社会人・日本生命の同期4選手が、プロ入りを決める中、小田は椅子に座ったままだった。

 指名漏れ──。

「ダメージ、結構大きかったですよ。どんどん仲間が(プロに)指名されて、一人ずつ部屋を抜けていく。自分は最後まで待って……。名前が呼ばれることはなかったんで」

 悔しさを胸の奥に押し込み、平静を装った。当時の花野巧監督から「3人が気まずそうにしているから、小田、声を掛けにいけよ」と言われ、「素直におめでとう」「頑張ってな!」と伝えた。その瞬間は、プレーヤーでありながら表舞台で輝けなかった。

「社会人2年目で、その経験があったから、まさか翌年のドラフトで呼んでもらえるとは……」

 指名漏れしても、決して腐らなかった。14年10月22日。オリックスからドラフト8巡目で指名され、晴れてプロの世界に辿り着いた。「社会人3年目だったから、5位指名までは(テレビ画面で)見ていたけど。(6巡目に入り)あぁ、もうないな……って一瞬、頭をよぎった」。待合室で孤独を知った、1年前の記憶がよみがえる。

「だから、自分の部屋に戻ったんです。ドラマのスイッチを入れて、そっちを見ていた。そしたら・・・

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