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野球浪漫2022

ヤクルト・小澤怜史 ここがゴールではない 「ピッチングスタイルを特に変えることなくできている」

 

4年ぶりに2ケタ番号に袖を通した男は今、一軍のマウンドで打者に立ち向かっている。道を切り開いたサイドスロー転向という選択──。新たな自分と出会い、進化を遂げた右腕は、次なる登板へ向け準備を進めている。
文=菊田康彦(スポーツライター) 写真=高塩隆、BBM


迷いなき転向


「スワローズ・スターティングピッチャー、ナンバー70! コザワー、レイジーー!!」

 再起をかけ、12球団合同トライアウトのマウンドに上がったあの日から573日。小澤怜史はドラフト2位でのプロ入りから7年目にして、初めて一軍の試合で先発投手としてコールされた。

 7月3日のDeNA戦、舞台は「あの日」と同じ神宮球場。だが、投げ方はまるで別人のように変わっていた――。

「良いときと悪いとき(の差)が激しかったんで。良いときでずっといっていればなぁっていう気持ちもあったんですけど、この成績じゃ無理だろうなっていうのは思ってました」

 ちょうど1年前のこの時期の心境を、小澤はそう振り返る。ソフトバンクを戦力外となり、ヤクルトと育成契約を結んで迎えた初めてのシーズン。東京五輪開催に伴い、例年よりも1カ月遅い8月31日の支配下登録期限が目前に迫っても、吉報は届かなかった。

 背番号014のユニフォームで、それまでに先発1試合を含む24試合に登板したものの、0勝2敗、防御率4.50。6年ぶりのリーグ優勝に向けてひた走っていたヤクルトならずとも、支配下登録は難しい成績だった。

 それでも落胆することはなかった。それどころか彼は、支配下登録期限よりも前に、すでにその先を見据えていた。

「チカラさんと話していて、期限が来る前からなんとなくサイド(スロー)にしようと思ってたんです。やっぱ、この成績じゃあなっていうのがあったんで、8月中旬ぐらいからもう次のことというか、サイドのことは考えてたんですよね」

 小澤がいう「チカラさん」とは二軍の小野寺力投手コーチのこと。日ごろからキャッチボールなどで小澤の腰の使い方を見て、「横の回転のほうが強いな」と感じていた小野寺コーチは「もし支配下登録がなくて、来年に向けて勝負するのであれば、横(サイドスロー)にしてみないか」と、アドバイスしていたという。

 それまではオーバースロー一筋。師走の寒い時期に行われたトライアウトでも145キロをマークしたストレートに、鋭く落ちるフォークは、ある意味では真上から投げ下ろしていればこそ。それを“捨てて”しまうのはもったいないようにも思えるが、小澤にためらいはなかった。

「自分としては別にもったいないとかはなかったですね。なんかもう、何年も同じことをやってるなっていうのが強かったんで……」

 小野寺コーチと日々のキャッチボールで感触を確かめ、初めて実戦でサイドから投げたのは、9月1日のイースタン・巨人戦(戸田)。生まれ変わった小澤はそこからシーズン終了まで、主に抑えで11試合に投げて2勝1敗3セーブ、防御率1.69と、見違えるような成績を収めた。

「感覚的に、上から投げる力感と横からの力感もそんなに変わらなかったんで。球の強さも変わらない感じがあったんで、できそうだなって思ってました。僕の場合は(スライダーなど)横の変化もサイドのほうがつきやすいし、フォークも感覚は変わらなかったんで、ピッチングスタイルを特に変えることなくできていると思います」

 本人がそう語るサイドスロー。その原点は・・・

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