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野球浪漫2022

ヤクルト・今野龍太 逆境を乗り越えて 「まだできると自分でも思ってたんで、ここであきらめるのもなって」

 

地元・宮城で悔しさを味わった男は、新天地・東京で見事に花を咲かせた。2シーズンで115試合に登板。29年ぶりリーグ連覇の力になった。リリーバー・今野龍太の上京物語は、たくさんの思いとともに続いていく。
文=菊田康彦(スポーツライター) 写真=高原由佳、BBM


不安を抱えて再出発


 ♪君ではダメだと言われてしまったか? 君じゃない人の方がいいと諦められたか?

 神宮球場に流れる哀愁を帯びたハーモニカのイントロと、それに続くそんな歌い出しに、スタンドからは大きな拍手が起こる。今野龍太がヤクルトでその曲──秋田出身のシンガーソングライター、高橋優の『プライド』を登板時の登場曲に選んだのは、歌詞に自身の境遇と重なるところがあったからだという。

「単純にいい曲を選ぶっていうよりは、歌詞を聞いてみて良かったら使おうかなっていう感じで、携帯に入っていた中からあの曲にしました。1回クビになったし、期待もされてないしっていうところが、なんか自分に合ってるなと思いながら……」

 ♪誰にも期待されてないくらいが丁度いいのさ ここにいる意味を刻み込むのさ 何度倒れても

 曲の続きにはそんな歌詞もある。少年時代からファンだったという楽天を「クビ」になり、ヤクルトで歩み出した第二のプロ野球人生。そこからの3年間で、しっかりと「ここにいる意味」を刻み込んだ──。

 1995年に人口1万5000人ほど(当時)の宮城県玉造郡岩出山町(現大崎市)で生まれ育った今野は、今では「岩出山の星」と呼ばれている。岩出山中では軟式野球部でプレーし、高校も地元の岩出山高に進学。高2の秋には部員がわずか5人になり「やめようかなと思った時期もあった」が、「我慢してやっていればいいことがあるのかなと思いながら」ひたむきに練習を続けた。

 部員11人で臨んだ3年夏の宮城大会では1回戦で16三振を奪いノーヒットノーランを達成したものの、3回戦で敗退。その秋、2013年のドラフト当日も「(名前を)呼ばれるとは全然思っていなかった」という。

「第9巡選択希望選手、東北楽天、今野龍太……」

 その名が読み上げられたのは、ドラフト会議開始から3時間近くが過ぎたころ。岩出山高からのドラフト指名は初めてのことであり、たとえ9巡目、支配下選手76人の最後であっても、今野にとって地元・楽天からの指名は少年時代の夢がかなった瞬間だった。

 その楽天ではルーキーイヤーから一軍のマウンドに上がったが・・・

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