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野球浪漫2023

楽天・藤平尚真 先発の柱を目指して 「スピードにこだわりはあるので、高めていきたい気持ちはありますけど、勝てなかったら意味がない」

 

プロ7年目の今季は、再び先発投手として腕を振っている。横浜高からドラフト1位で入団し、当初は強い輝きを放ったが、3年目以降は持てる力を考えても不本意なシーズンが続いた。それでも着実に前へ進んでいる実感はあるだろう。変化を恐れず、質の高いボールを求め、結果にこだわっていく。
文=田口元義(フリーライター) 写真=桜井ひとし、高原由佳、BBM


飛び抜けた素質


 今季、先発ローテーションを勝ち取った藤平尚真だが、ここまで7試合しか登板していない。日本プロ野球のスタンダードである中6日ではなく、チーム事情により中10日で先発マウンドを託されて2勝3敗、防御率は5.03(6月27日現在)。成績だけに目を向ければ、決して優れているとは言えない。

 しかし、藤平に悲嘆はない。シーズン序盤から、ここは一貫している。

「まだできるって感じですかね。後半戦まで戦える準備と捉えてもいるんで、その日のピッチングが悪かったからどうとかは考えてないですね」

 今シーズンの藤平のマウンドは、ここ数年と比べると、どこか違う。パフォーマンスが良かろうと悪かろうと、ピッチングに躍動感がある。もっと端的に言えば、若さがある。前後裁断のごとく、目の前の事象に対して愚直に力を放出しているような勢いを感じるのだ。

 プロ7年目の藤平に対して失礼ながらと断りを入れ、そんなことを告げると「アハハハ」と快活に笑い、答えた。

「そうっすね。ボール自体もそうですし、投げていての勢いっていうか、気持ち的にもそういう部分はしっかり表現できてるかなって思います」

 若き日――。藤平は学生時代からすでに有名だった。中学時代に所属していた千葉市シニアで2年時に全国優勝。3年時にはU15日本代表にも選ばれた。その素質は他競技でも発揮され、走り高跳びで全国中学校陸上競技選手権2位。ジュニアオリンピックでは優勝の華やかな実績があった。いわゆる「センスの塊」。それが藤平だった。

「でも、陸上でも何でも、ほかのスポーツができたって、野球がちゃんとできなかったら意味ないですよ」

 そんな藤平が、アスリートとしての高みを目指したのが野球だった。春夏合わせて5回の全国制覇を誇る横浜高に進むと、松坂大輔(元西武ほか)や涌井秀章(中日)といった好投手を輩出してきた名門校でストレートの最速を152キロまで伸ばした。「高校屈指の右腕」。そう呼ばれるほど、世代をけん引する存在となった。

 唯一の甲子園出場となった2016年夏。藤平は2回戦でプロ注目左腕の履正社高・寺島成輝(元ヤクルト)と投げ合い、敗れた。この年は両者に加え、優勝した作新学院高の今井達也(西武)、花咲徳栄高の高橋昂也(広島)とともに「高校ビッグ4」と称されるほど高校生ピッチャーが豊作だった。U18日本代表に選出された藤平の評価は、楽天がドラフトで単独1位指名したことからもよく分かる。さらに、球団から与えられた背番号「19」はヤクルトを3度の日本一、楽天でも09年に球団初のクライマックスシリーズへと導いた名将、野村克也が身に着けていた番号である。期待の大きさは、明らかだった。

 将来のエース候補。そんな文言をメディアが謳(うた)う。武器は150キロを超えるストレート。周りは155キロやその先の剛速球を夢想する。しかし、当の本人は春季キャンプの時点から、自分の足元を見つめながら言っていたものだ。

「自分としてもスピードにこだわりはあるので、高めていきたい気持ちはありますけど・・・

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