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野球浪漫2023

西武・西川愛也 取り戻した色彩「不名誉な記録をつくった分、逆に今度はエグい記録をつくってみたいです」

 

長いトンネルだった。初安打以来、「H」マークが灯らない日々。連続無安打は野手ワーストに達するまでになったが、暗闇を抜けた今、新たな道を進んでいる。誰もが認めるバッティングセンスを持つ。来季のレギュラー奪取へ、マイナスの経験もムダにしない。
文=上岡真里江 写真=橋田ダワー、BBM

8月22日のオリックス戦[ベルーナ]でプロ初本塁打。通算100打席目で待望の一発だった


ようやく外れた“枷”


 2022年9月10日の日本ハム戦(ベルーナ)後、西川愛也はかつてないほど心身ともに打ちのめされていた。

 数時間前。守備固めとして9回表からではあったが、試合出場は9月6日以来、3試合ぶり。8月28日以来、9試合ぶりにもらった打席は、人生を変える最高のチャンスだった。0対1で迎えた9回裏、2つの四球で二死一、二塁から中村剛也が左前適時打で1対1の同点に追いつくと、続く代打の栗山巧は四球を選び二死満塁。一打サヨナラの大チャンスで、西川に打席が回ってきた。この年、そこまで29打席に立ち無安打だ。代打を出されてもおかしくない場面だったが、ベンチに動きはない。

「ここで打ったら、マジで変わる。絶対に決める!」

 人生を変えるべく全身全霊をもって打席に挑んだが、井口和朋の3球目、130キロスライダーを浅いセンターフライで逸機した。西川にとって、これで20年のデビュー戦初安打以来、安打が出ず59打席連続無安打。ついにNPBワースト記録に並んでしまった。

「オレって、めちゃくちゃ小さい選手だな……」

 帰りの車中で自分を卑下せずにはいられなかった。いつもであれば気分転換のために音楽を流すようにしているが、この日ばかりはそれすらも耳障りに感じる。

「とにかく無音で、魂が抜けたみたいな状態で帰りました」

 翌日、登録抹消となり、西川は2年連続でシーズン記録に「打率.000」を記録することとなった。

 その2カ月後の秋季キャンプには、明らかに目の色が違う西川がいた。高卒でのプロ入りとはいえ、5年目のシーズンが終わっても一軍で数字らしい数字は残せていない。同学年で同期の平良海馬が大ブレークを果たし、チームの絶対的リリーバーとして最優秀中継ぎのタイトルを獲得するほどの活躍をしている。一方で、年齢の近い選手が戦力外通告を受けることも増えてきている現実に、本気で危機感を抱かざるを得なかった。全体練習が終わると、個別練習をみっちりこなし、その後は室内練習場で動作解析をしながら打撃フォームを試行錯誤し、そこからマシン打撃に向かう。連日、日が暮れるまで誰よりもバットを振った。

「もう来年しかないので」

 口調こそ弱々しかったが、その目には強い覚悟を感じさせられた。

 やるからには徹底的にやる。オフ期間の自主トレを、厳しい練習メニューと量で知られる山川穂高の下で行い、かつてないほど自分を追い込んだ。また、3度の本塁打王を獲得しているその打撃論を聞き、アドバイスを受けながら打撃フォームも改良。「去年までは、軸足の左足に体重を置いたまま回っていたので差されることが多かったんです。それを、左足から右足へと重心移動して、全体重をぶつけにいくような感じで打つようにしたら、ポイントが安定しました」

 野球に取り組む姿勢も、これまでとは激変した。「1日中、野球のことを考えるようになりました」。練習している間だけではなく、食事も、その他の私生活も、すべて野球につながるようにと、自然と意識するようになっていた。成果は確実に表れた。オープン戦で打率.294と成績を残し、昨年からの変化をアピールすることに成功。自分自身の中にも確かな手応えを感じ、さらに自信を持って打席に立てるようになっていった。

 開幕を目前にケガで出遅れはしたが、4月30日に一軍昇格を果たすと、その日の楽天戦(ベルーナ)でさっそく汚名返上のチャンスが与えられた。

 第1打席は空振り三振。これで60打席連続無安打となり、NPB記録をつくることになってしまう。それでも、もう引きずることはなかった。

「割り切って、次の打席、次の打席と切り替えて打席に入りました」

 続く2、3打席目も左飛、二ゴロ凡退に終わる。そして7回に迎えた第4打席だった。カウント2-2からの西口直人の5球目、チェンジアップを中前へはじき返し・・・

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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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