千里の道も一歩から。レギュラーは1日ではなれない。競争社会に身を置けば、否が応でも焦りは生まれるもの。だが、自己を見つめ、計画的に歩みを進めてきた。仙台のレフトスタンドからは66番の背中がいつも見える。今、花形のポジションを不動のものにしようとしている。 文=田口元義(フリーライター) 写真=桜井ひとし、BBM 入団時から変わらぬ思い
楽天のショート。
村林一輝にとって今や自分の居場所であるそのポジションも、3月29日だけは少し違っていた。
ホームの楽天モバイルで開催された開幕戦。村林はプロ9年目にして初めて開幕スタメンとして今シーズンを迎えた。
西武戦に九番・遊撃で出場した村林は、3打数1安打と最低限の仕事を果たしてオープニングゲームを終えた。
「本当はもっと早く開幕スタメンになっておかないといけなかったという意味では、9年目は遅かったというか。でも、結果的にそういう場所に立ててよかったですよ」 このように淡々と9年目の「初めて」を話していた村林に尋ねる。
──自分では遅かったと思っていても、「やっとここまでたどり着けた」という感情は湧かないか?
村林は
「あははは」と一笑し、あっさりとこう切り返した。
「いやいや。感傷に浸ることはないですよ。これからも試合があるんで」 無機質な返答のようだが、そこには「もっと駆け上がる」という、決意がみなぎっているようにも思えた。
楽天に入団する前の村林は、全国的には無名の選手だった。ただ、大阪桐蔭高や履正社高など名門校がひしめく大阪において名が知られており、公立の大塚高のレギュラーだった村林は、3年時にエースとして最速143キロ。投手だけではなく、50メートル6秒2の俊足に加え、遠投110メートルの強肩と、その身体能力の高さはスカウトの目に留まるほどの選手だった。
2015年秋のドラフト。楽天から7位指名された村林は、プロでは内野手一本で挑戦する決意を固めた。
当時の村林はプレーヤーとしてではなく、どちらかと言えば見た目を強調されることが多かった。
シャープな輪郭に切れ長の眉、瞳は大きく、鼻筋が高い。まるで歌舞伎役者のような整った顔立ちが市川海老蔵(現團十郎)を連想させると、メディアでは「楽天の海老蔵」と取り上げられる。そのような呼称を付けられたことについて、本人は喜ぶことも嫌そうな素振りもなく、
「なんもないっす、本当に」と、当時から関心を寄せていない。
1年目から一貫していることは・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン