試合中盤以降にマウンドに現れ、粘りの投球でチームを救う背番号36。10年目の昨季には、新たなフォームでキャリアハイの成績を残した。球威を生かした投球術は、経験と持ち前の思慮深さが育んだもの。これまでの歩みを力に変えてきた左腕が、さらに頼もしさを増していく。 文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=井沢雄一郎、栗山尚久、毛受亮介、BBM “開幕投手”抜てきの理由
スタイルを持つ性格である。例えば、コーヒーだ。キャンプ地には、ミルやドリッパーを持ち込み、豆にもこだわりを見せる。
「ブレンドもいいですが、今はペルーのコーヒーですね。コク・酸味・苦味、バランスが良いですね」 例えば、栄養面だ。
「発酵食品を取るように心掛けています。納豆やキムチ。それに、姉が勤める会社がマイ・フローラ(植物乳酸菌飲料)を販売していて、これも愛飲しています。腸活ですね」 話題が豊富で、反応が速い。だから、11年目を迎えた塹江敦哉の取材に、興味が尽きることはない。
2025年、春季キャンプ、
新井貴浩監督は、開幕投手に塹江の名前を挙げ続けた。
大瀬良大地、
床田寛樹、
森下暢仁。実績組の争いに報道陣は敏感になっていた。そこに、塹江だ。20年以降、先発登板はない。新井監督はユーモアで取材陣を煙に巻き、さらなる話題を提供した。
2月25日、新井監督は、森下が開幕投手であることを明言した。
「もちろん、塹江にはお詫びを入れました。『すまん、気が変わった。森下でいく』と。そう言ったら、がっくりしていました」
一方、塹江の切り返しもさえている。
「親を招待しようと思っていたのに……」 開幕投手候補たちを過敏にさせない。報道陣に話題は提供したいが、オープンにできるタイミングではない。「開幕投手、塹江」は、チームに携わるすべての人をハッピーにする最適解だった。
しかし、なぜ塹江だったのか? 後日、指揮官は明かす。
「彼は頭が良く、状況を理解してくれる選手です。それをしっかり表現できます。いわゆる『言葉のプロレス』ができる選手だと思っていました」
当事者の本人も、真面目に振り返る。
「もともと、言葉やボキャブラリーに興味はあるタイプです。野球選手の外に向けての発言はあんばいが難しいです。直接話すわけではありませんが、ここまでは大丈夫、ここはダメ。ボーダーラインを監督と合わせるよう、気を付けていました」 昨シーズンはキャリアハイの53試合に登板を果たし・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン