その道で成功するには、地道な努力を続け、チャンスが来るまで牙を研ぎ、我慢を重ねることも大事になってくる。試合に出場できずとも、強い心を持ち続け、向上心を忘れずに練習に励む日々だ。 文=柏原誠(日刊スポーツ) 写真=宮原和也、牛島寿彦、BBM チャンスがいつ来ても
5月下旬のある日。もうほとんどの選手が練習を切り上げ試合に備えようとしている時間帯に榮枝裕貴はまだグラウンド脇にいた。二塁へのスローイング練習。
「ラストいきます」。気持ちを入れ直して、丁寧にステップを踏み、たたきつけるように腕をブンッと振った。地をはうボールは最後まで勢いを落とさず、ノーバウンドでグラブに収まった……。いや、正確に言えば、相手はグラブに当てて捕り損ねていた。
二塁ベース上で練習の補助していたのは元阪神投手の
二神一人広報。榮枝にとって高知高の先輩に当たる二神氏は、投手役の
野村克則バッテリーコーチと顔を見合わせて、目をぱちくりさせていた。
「すみませ〜ん」と近づいてきた榮枝に、二神氏はすごいね、とばかり、親指を立てた。
一軍にいながら、ほぼ試合に出ることなく地道なルーティンの繰り返し。練習でいくらアピールしても、出場機会とは関係がない。これが俗に言う「第3捕手」の日常だ。
阪神は
梅野隆太郎、
坂本誠志郎という絶対的な捕手2枚を擁する。
岡田彰布前監督は基本的に捕手2人制を好んだため梅野、坂本以外の捕手は、ほぼノーチャンス。榮枝も昨年は1試合の出場に終わった。
藤川球児監督に代わって風向きが変わった。作戦のバリエーションを増やすために捕手3人制を選択。「3枠目」に選ばれたのが榮枝だった。5年目で初の開幕一軍入りを果たした。
開幕後すぐ、さらに期待感が高まる出来事があった。新外国人ジョン・デュプランティエと息が合い、右腕の来日初登板となった4月3日の
DeNA戦(京セラドーム)で、スタメンに抜てきされたのだ。2シーズンぶり2度目のスタメンマスク。6回1失点の好投を導きながら惜しくも敗れたが、手応えの残る1日になった。
「あの試合は、思っていたよりも自分の思いどおりにできました。もちろん、デュプランティエの球が良かったというのもあるんですけど。じゃあ、投手が変わってどうなるか、対戦相手が変わってどうなるか……。1試合しか出ていないので分からないというのが正直なところです。やっぱり、二軍とは緊張感も、重みも全然違う。あの試合でマスクをかぶって負けてしまったので、今は勝ちに飢えています。次こそは勝ちゲームを作りたいなという気持ちが強くなりました」 デュプランティエも・・・
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