身体能力は日本だけでなく、メジャーでもトップクラス。打っては逆方向へ本塁打を放つ高いパワーを誇り、走ってはわずかな隙を突いて進塁を決める。1年目に10本塁打&10盗塁を記録した28歳は4年目にして生まれ持った才能を大きく開花させている。
文=田尻耕太郎(スポーツライター)　写真=井沢雄一郎、湯浅芳昭、戸加里真司、早浪章弘

高い身体能力

　やはり新選組のリーダー「近藤勇」に由来して命名されたそうだ。幕末の世を腕だけで成り上がり、刀一本で不逞浪士に立ち向かったのが彼らならば、野村勇は今、バット一本でプロ野球界という荒波にもまれながらも頭角を現してきた。

　8月16日、本拠地みずほPayPayのロッテ戦で放った一発は、今シーズンの野村の躍進を象徴していた。8回裏の先頭で打席に入ると、小島和哉の直球を右中間のホームランテラスへ放り込んだ。これが今季11号。自身のキャリアハイを更新した。逆方向へ放り込めるパワーも魅力だが、打ったコースも外角いっぱいのやや低めで、あるいはボールゾーンだったかもしれない。野村は身長174cm。球界で体格に恵まれたほうとは言えないにもかかわらず、一番遠いコースの球を芯でつかまえてみせた。

　野村のバットは、届くのだ。

「去年まで85.5センチだったのを、今シーズンから87センチに変えました」

　きっかけは、これまで4度の本塁打王に輝いている山川穂高からのアドバイスだった。

「去年、僕のバッティングを見てくれて『もっと前で打ったほうがいいと思うんだよな』と言われたんです」

　ミートポイントを投手寄りにしてボールを打ちにいく。つまり究極の前さばきをしても、少しでも球に当たりやすいようにバットを長くしてみたらどうか、というのが山川の提案だった。プロ野球選手は33.5インチ(85.09センチ)から34インチ(86.36センチ)のバットが主流とされ、野村の87センチはそれと比べると少し長め。特に野村の背丈でそれを構えると、かなりの長尺に映る。

「遠心力が効くから打球がめちゃくちゃ飛ぶんです。正直、扱いは難しくなるので、最初はもし結果が出なければ元に戻そうと考えていたのですが、結果的にヒットも出ている。それにほんの少し長くなっただけですが、外のボールも届く。もともと外角打ちは得意だったので」

　長いバットを扱うのはプロといえども並大抵ではない。だが、野村は超人級の肉体であることが証明されている。2023年の秋季キャンプで、アメリカのトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」が選手ごとに測定を行ったところ、野球ではスイングスピードに直結する瞬発力の数値が飛びぬけて高く、同施設のスタッフが「メジャーのトップクラスにも匹敵するレベル」と舌を巻いた。小久保裕紀監督も「何千人と測った中で7番目くらい。身体能力的にはオリンピック選手」という結果を耳にし、「本当に魅力的な選手」と目を細めた。

　確かに、プロ1年目のシーズンにはその片りんを見せていた。97試合出場で打率は.239だったが、10本塁打と10盗塁を残した。ルーキーで2ケタ本塁打、2ケタ盗塁を同時達成したのはパ・リーグでは1985年の熊野輝光(阪急)以来37年ぶり。さらに10発は球団の新人タイ記録で39年に鶴岡一人が樹立して以来、実に83年ぶりに肩を並べる快挙だった。

努力の天才

　パワーもスピードも才能は一級品。守りでは強肩も見せる。しかし、野村は意外な言葉を口にして頭をかいた。

「ことスピードに関して言えば、子どものころは足が速いほうではありませんでした。中学生のころなんてチーム一の鈍足でしたから」

　神戸市生まれの野村は3人きょうだいの一番上。小学校2年生でクラスメートからの誘いで野球と出合い、垂水ファイターズの一員となった。すぐに野球のとりことなったのだが、本人以上にのめり込んだのが・・・