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スプリットよりも投球フォーム 田中投手の肘が悲鳴を上げた理由

 

データからスプリットの多投は確かに目立つが、故障の原因と結論づけるのは早計か。写真=AP



 4月28日に行われたエンゼルス戦で田中将大投手の投げたスプリットの割合が投球の割合の28.7%に到達していたのを知った時に、渡米をしてかなりの割合でスプリットを投げていると感じました。

 私は故障せずにいつまで持つのだろうかと気になっていましたが、肘の故障を知った時には驚きというよりは、想像をしていた時期が早くやってきたと思いました。対戦した相手チームの監督、コーチ、打者、投手らが「あれだけスプリット投げていたら、彼が故障するのは時間の問題だ」と話すのを聞いていましたので。

 スタッツを集計しているサイト「Fan Graphs」では4月の試合で、田中将大の全投球中のスプリットの割合は25.0%。メジャーの規定投球回数に到達している投手の中で一番割合が高いと説明し、これが今回の肘の故障に繋がっているのではという記者がいるのも現実です。日本ではおよそ12〜3%ぐらいだったと記憶しています。

 日本で175試合登板をした田中投手が、まだ18試合しか登板をしていないメジャーリーグで怪我をしたとは断言できないと私は思います。いずれにしても明確な答えが出るのは医学がもっと進歩をしてからになるのではないでしょうか。

 田中投手に関して、スプリットの多投に何かと注目が集まっていますが、彼以上にスプリットを多投する投手が存在する事を皆さんはご存知でしょうか。今シーズンの80イニング以上を投げた投手の中でスプリットの割合が高いのは以下の投手です。

岩隈久志:26.9%(1位)/84.6マイル(6位)
・田中将大:25.0%(2位)/86.5マイル(2位)
黒田博樹:22.9%(3位)/86.3マイル(3位)
・ダン・ヘイレン:16.0%(4位)/81.6マイル(11位)
・ミゲル・ゴンザレス:15.5%(5位)/83.7マイル(9位)
・ティム・ハドソン:14.2%(6位)80.8マイル(12位)
ダルビッシュ有:2.4%(13位)/89.1マイル(1位)

 実はスプリットの投球数に占める割合では、岩隈投手は田中投手以上にスプリットを多投していて、規定投球回数には達していないものの、全投球の26.9%をスプリットが占めています。

 同じく「Fan Graphs」のデータによるスプリットの平均球速ですが、田中投手のスプリットは86.5マイル(139.2キロ)で、ダルビッシュ投手の89.1マイル(143.4キロ)は下回るものの、MLBでもかなり高速となるスプリットに分類されるのではないでしょうか。

 他の日本人投手もスプリットを多く投げているのですが、黒田投手も86.3マイル(138.9キロ)、岩隈投手も84.6マイル(136.2キロ)とかなり速いスプリットを投げています。この2人は昨年も、岩隈投手は全投球の22.8%(85.4マイル)、黒田投手は21.0%(86.4マイル)がスプリットとなっていて、2年連続で高速スプリットを多投していることになります。

 特に黒田投手は“ミスター完投”と言われるほど投げており、2001年には27試合中13試合で完投しています。それでも黒田投手は肩や肘に大きな問題を抱えていません。なおかつ、33歳で渡米し、2009年に左わき腹を痛めた時以外は、メジャーリーグの先発ローテ―ションを守り続けていますが、田中投手はメジャー3カ月あまりで肘を痛めてしまいました。

 この差は中4日の影響でしょうか? それともスプリットの多投でしょうか?

 もちろん個々人の身体の強さは異なり、日々の生活の中での体調管理などによっても違うと思いますが、私は田中投手の投球フォームのメカニックに問題があり、日本時代から肘や肩を故障しやすい腕の振りだと感じています。

 田中投手が投球動作に入ってから、左足が着地した時の右肘の高さに注目してもらいたいと思います。

 肩より上に肘の高さがあるのが分かると思います。これは肘にかなりの負担をかける事になる投球フォームと見ています。黒田投手や岩隈投手の場合は、肩よりも肘が低い位置にある投球フォームです。無理がないため、故障しにくい投球フォームと言えます。

写真はNPB在籍時だが、この頃から肩より肘が高くなる傾向が見られた



黒田は近3年年間200イニング以上投げているが、現在肘の故障は抱えていない。 写真=AP



 具体的には、田中投手の場合ステップをした時に後ろに腕をテイクバックをするのですが、その際に右肘が肩のラインよりも上にあがること。そしてその後、右手をトップの位置にふり上げていくのですが、その際に右腕が地面に90度ではなく、45度でロックされているのです。ロックされることで、右腕が体から離れた位置でスイングするので、右肘に負担を強いる結果になります。効率が悪く、過剰なパワーを使うことになります。ちなみにダルビッシュ投手は、今シーズンに入って昨年より腕の振りをコンパクトなフォームに変更しています。右腕を体に近付けてスイングし、効率良くパワーを伝えることを意識しているのでは、と見ています。

 田中投手の肩と肘の位置については、私の友人のスカウトが日本で田中投手を視察をした際に同じことを指摘していた事を思い出しました。いずれにしても万全な状態で戦列に復帰してもらいたいと思います。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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