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日本人メジャーリーガーの成功にはスペイン語が必要?

 

英語だけではなく、スペイン語でもコミュニケーションを取るイチロー選手(写真=AP)



 最近のメジャーリーグでは英語よりもスペイン語が主流になっているのではないかと思います。メジャーリーグは現在、アメリカ国外出身の選手が全体の23.2%。その内の62.2%がドミニカ共和国をはじめスペイン語を母国語としている中南米系の選手という構成となっております。今回はこうした状況の中、メジャーリーグ所属の日本人選手のコミュニケーション方法についてお伝えしたいと思います。

イチロー選手はスペイン語で中南米系の選手と絆を深めていった


 日本人のイチロー選手が、英語だけではなく、きわどいスペイン語も話せる事はイチロー選手のファンならご存知かもしれません。中南米系の選手からの“評価”も上々とのことです。アメリカでは外国人扱いをされる日本人のイチロー選手が中南米系の選手から「どうやらイチローのスペイン語は、かなりやれるらしいぜ!」という話を聞いただけで、日本のファンの方々も嬉しい話なのではないでしょうか。

 アメリカには約2000万人もいると言われる「英語力が不十分な人」のうち、2/3の人たちの母国語が「スペイン語」だそうです。その為、アメリカの学校で教える第二外国語も、圧倒的にスペイン語であり、アメリカ社会におけるスペイン語の重要性はますます高まっています。

 その一方、アメリカで「英語の話せない人」がますます増え続けていることが明らかになっています。アメリカ人、つまり、英語を話せる既存のアメリカ人の第二外国語習得に対する関心の低さ、さらには、ヨーロッパに比べてエグゼクティブや一般市民のマルチリンガル率がかなり低いという調査結果も出ています。

 つまり、「現実社会でのアメリカの多言語化」がもはや止められないほどの勢いで進行しつつあり、それを誰もがわかっているにもかかわらず、「アメリカの多言語化への対応」は、あまり進んでいないどころか、かなり遅れているのです。

 しかし、メジャーリーグにおいては、中南米系の選手が増えており、スペイン語の重要度はこれから増していく事でしょう。報道メディアを見ても、MLB公式サイトは既にスペイン語への対応も行われており、また、スペイン語対応されているデータサイトも多数存在します。

 2013年ヤンキースのマリアーノ・リベラの引退試合では、スペイン語圏出身(パナマ)であるリベラ投手に、スペイン語スピーチをやらせるべきだったのでは? と意見もあったそうです。

 イチロー選手はスペイン語でのコミュニケーションについて、「アメリカに来れば外国人扱いをされる。ここに来たら、外国人は同じ試練に打ち勝っていかなければならない。その為、ちょっとしたスペイン語で話しかけるだけでも彼らは本当に喜んでくれるし、絆が深まる気がする」と話しており、コミュニケーションツールとして有効活用していることがうかがえます。

 他には、ブルージェイズの川崎宗則選手もイチロー選手と同様に、英語だけはなくスペイン語も使ってチームに溶け込んでいたそうです。

 川崎選手は少しでも選手と近くなりたいと思っているそうで、遠征先では良く選手と食事にも出かけるそうです。簡単にみえるこの行動は誰でも出来る事ではありません。あらゆる方法を駆使して、いかに「自分の居場所」を早く見つける事が出来るのも日本人選手にとってはとても重要な事です。

 野球のプレーはもちろん、どの言語をカバーするかも成功への近道となる事は間違いなさそうです。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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