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鳥谷敬選手と姜正浩選手 メジャー契約交渉から見えたこと

 

メジャー移籍を断念した鳥谷敬選手



日本人だけではなくアジア人内野手への評価が厳しいメジャー


 2014年のオフに阪神タイガースからメジャーリーグ入りを目指し、契約が成立しなかった鳥谷敬選手。また隣の韓国プロ野球のネクセン・ヒーローズからやはりメジャーリーグ入りを目指していた姜正浩(カン・ジョンホ)選手。姜選手はメジャー入りを表明後早々にピッツバーグ・パイレーツが30日間の独占交渉権を獲得し契約が決まりました。

 彼の落札額は500万2015ドルとの事でしたが、これはフロリダ・マーリンズに移籍をしたイチロー選手がマリナーズに移籍した際の1312万5000ドルや西岡剛選手(現阪神)がミネソタ・ツインズに移籍した際の532万ドル9000ドルを下回る額でした。

 姜選手は昨シーズン、韓国プロ野球で打率3割5分6厘、40本塁打、117打点という好成績を記録しました。もし日本人選手で同じような成績を残していて、同じような入札金額でしたら皆さんも驚いていたのではないのでしょうか。

 そこには日本を含めたアジア人内野手への評価が厳しいことが背景にあると思います。

 アメリカのメディアが姜正浩選手を紹介する記事には、「韓国プロ野球は打撃有利で、成績は誇張されている」と言っております。さらに守備はメジャーでは通用しないとし、ニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスには必要ない、という論陣を張っていたほどでした。同時に落札額が500万ドル程度と事前に報道をしていました。メディアの予想通りになりましたが…。

鳥谷選手との決定的な差は身体能力とスピード


 さて、本題に戻りますが同じ内野手でメジャーリーグ入りを目指していた鳥谷選手と姜選手。どうしてこの差が出てしまったのか解説をしたいと思います。

 姜選手が27歳であるのに対し、鳥谷敬選手は33歳と年齢も高く、果たしてどれだけ活躍できるかと疑問符を持つ球団も多くあったと思います。実際ブルージェイズの正式オファーも本来の遊撃手ではなく、二塁手として評価をしていたと聞きました。

 今回、私も球団に鳥谷選手と姜正浩選手の比較を以下の様に報告をしました。

「姜選手は身体能力が高い上に守備も堅実。鳥谷選手は姜選手と比べてもフィールディング(守備)では遜色はないが、決定的なのは肩の違いです。鳥谷選手はここ数年、肩が弱くなっており、スローイングに不安があります。一方、姜選手は12、13年、2ケタ盗塁をマークするなど、機動力も兼ね備えている。年齢はもちろん、身体能力とスピードの差は決定的に姜選手の方が上です」

 姜正浩選手が移籍したパイレーツも長期の低迷から脱し、ここ2年連続でポストシーズン進出を果たしているチームです。投打のバランスが整い、今季もナ・リーグ中地区の優勝候補の一角です。1979年以来、36年ぶりのワールドシリーズ制覇を目指すパイレーツが、鳥谷選手獲得に動かなかったのは、それなりの理由があったのだと思います。

KBOとNPBの「野球」の違い


 KBO(韓国プロ野球)の27歳の遊撃手と、NPB(日本プロ野球)の33歳の遊撃手、どちらに価値があるか、長年MLBのスカウトをやってきた経験から考えてみたいと思います。

 もし鳥谷敬選手が、KBOに渡ってプレーをするとなれば、本塁打王にはなれないだろうが、首位打者を取るくらいの活躍はするだろうと私は思います。KBOにも良い投手はいるのですが、その数はとても限られています。

 WBCでも対戦を重ねるにつれて、NPBは易々と韓国を打ち負かしました。韓国プロ野球では一線級と比較して、二線級の投手が極端に落ちるので、確実性のある鳥谷敬選手の打撃なら、攻略出来ると思います。守備でもKBOの中では際立って見えるだろうと思います。

 逆に姜選手が、NPBでプレーをすれば、本塁打は鳥谷敬選手よりも多く打つかもしれませんが、打率は急落すると思います。それだけNPBの投手は優秀なのです。すぐに選手の欠点を見つけて攻め立てる。そして日本は先発も救援もレベルが非常に高い。また私は日本の高度な連係プレーも彼を悩ませるのではないかと思います。

 しかし二人がMLBに行けば、その評価は大きく変わると思います。年俸は鳥谷選手が7倍近く多い。リーグが違うから単純比較は出来ませんが、通算成績も鳥谷敬選手が上です。

 ただ長打力は姜選手の方が明らかに上です。単に2014年の成績だけで見れば、その評価は決定的になる。姜選手はスラッガーだが、鳥谷選手は長打の無いアベレージヒッター。MLBではMLBで実績のない選手の評価は「時価」になる傾向が高く、過去の実績や、これまでの年俸などはゼロになり、「今、使えるかどうか」だけが考慮の対象となります。

 年齢を考えても鳥谷選手はすでにピークを過ぎているが、姜選手はこれから頂に臨もうとしている。そして、NPBという「緻密」な野球に完全に順応していた鳥谷と、レベルは低いが「作戦」「戦術」よりも、「投げる」「打つ」「走る」という単純な能力が重視されるKBOでプレーしていた選手の方が、よりMLBになじみやすいとメジャーリーグのチームのスカウトは考えていたと思います。

 ウィンターミーティングを過ぎても中々声がかからない鳥谷選手と、早々に入札があった姜選手。二人の差はNPBとKBOの野球「質」の差が出たのだと思います。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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