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2勝目を挙げた田中将大が今後乗り越えるべき壁とは?

 

開幕戦は4回を5安打5失点で敗戦投手になったが、18日のレイズ戦は7回2安打無失点の好投を見せた



 田中将大投手が現地時間4月18日のタンパベイ・レイズ戦で7回を2安打無失点の内容で2勝目を挙げました。この試合で田中投手の投球について、日米の両メディアで前回までは”不安”との声が多くありましたが、今回の投球で”復活”との声が多くなったのは間違いないのではないでしょうか。

 しかし、我々球団関係者からすると「シーズン序盤の3試合だけで良いとも悪いとも言えない」というのが本音です。本当の評価はシーズン全体を通じてか、最低でもシーズンの半分くらいを見ないと判断出来ないと思います。そのため、あくまでも今後のシーズン全体でのパフォーマンスにより、田中投手の投球スタイルのモデルチェンジの是非が判断できるのではないでしょうか。

 そのような状況ではあるのですが、投球のモデルチェンジや右肘の問題だけでなく、昨シーズン前半で長期離脱してしまったため、今シーズンに持ち越している課題が残っている状態です。

 そこで今回は田中投手が、今後乗り越えるべき課題についての私の考えをお伝えしたいと思います。

1. 中4日になると中5日よりも成績が落ちる問題の解消
2. 連続での中4日での登板は1回しか経験していないこと
3. シーズン中盤の疲労が蓄積される時期を乗り切っていないこと
4. シーズン終盤の長期連戦を乗り切った経験がないこと

 以上の4つの内容について、具体的に見て行きたいと思います。

1. 中4日になると中5日よりも成績が落ちる問題の解消


 4月から7月にかけての18試合における登板間隔ごとの投球成績は以下となっています。

・中4日が8試合
・中5日が9試合
・中6日が1試合

 となっているのですが、中6日はスプリングトレーニングの最終戦からの登板間隔です。中5日では66.2回で防御率2.02/WHIP0.94/奪三振率9.99と圧倒的な成績の一方で、中4日となると55.2回で防御率3.07/WHIP1.10/奪三振率8.56と悪くはないものの、防御率は1点以上落ちるなど、パフォーマンスは低下しています。

 このように比較すると「疲労が完全に抜けない中4日の方が、中5日になるとパフォーマンスが落ちるのは当然だ」と考えるかもしれませんが、実はそうとは言い切れないデータがあります。

 メジャーの各球団が先発ローテを5人から6人に変えることに乗り気でないのは、年俸の問題、エースクラスの投手の登板試合数が減ることで、チームの強みが弱まってしまうなどが理由としてあげられています。メジャーでは基本的に中4日の登板間隔が半数を占めていますので、この中4日という登板間隔に起因すると考えられるパフォーマンスの低下は今後の克服すべき課題となると考えられます。

2. 連続での中4日での登板は1回しか経験していないこと


 田中投手は2014年に中4日で8試合に登板していますが、中4日で連続して登板したのは6月28日のレッドソックス戦の後、中4日の7月3日にツインズ、さらに中4日のインディアンスの時の1回だけです。

 そのツインズ戦では7.0回で4失点(自責点4)でクオリティスタートの連続試合を16で止められ、続くインディアンス戦では6回2/3で本塁打2本を含む被安打10で5失点(自責点5)と打ち込まれ、その後に右肘靭帯の部分断裂が明らかになりました。

 シーズン終盤になると長期連戦が多くなり、プレーオフをかけた戦いもクライマックスとなりますので、疲労の蓄積してくる時期に、エース級の投手は基本的に中4日で投げ続けることが多くなります。

 田中投手はシーズンは2年目となるのですが、メジャーでの先発投手が避ける事ができない連続での中4日での登板が乏しく、しかもその際に故障につながっています。そのためシーズン中盤以降の連戦が多くなり、しかも疲労が蓄積し始める時期に、連続しての中4日登板によるパフォーマンスの低下ならびに故障を回避するということが、1つのポイントとなるのではないでしょうか。

3. シーズン中盤の疲労が蓄積される時期を乗り切っていないこと


 メジャーリーグの先発投手がシーズン中に疲労のため、腕に力が入らなくなってしまう“デッドアーム”という状態になりパフォーマンスが落ちてしまう時期があります。

 サイ・ヤング賞クラスの投手でも経験することで、防御率1点台で6月くらいまできても、夏場にかけて打者が調子を上げてくることと相まって、一気に防御率が悪くなることが少なくありません。昨年はカージナルスのアダム・ウェインライト(2014年:227回/防御率2.38/WHIP1.03)などは、このデッドアームに苦しめられて夏場に成績を落としました。

 田中投手はオールスター前の、ちょうどそのデッドアームになりやすい時期に差し掛かるところで長期離脱しましたので、本当の意味でのデッドアームを経験していないと考えられます。そのため、フルシーズンを投げきって良い成績を残すためには、シーズン中盤以降のデッドアームとなる時期を乗り切ることが重要なポイントとなるのではないでしょうか。

4. シーズン終盤の長期連戦を乗り切った経験がないこと


 長いメジャーリーグのシーズンで、本当の山場は長期連戦が多くなるオールスター以降です。元々、長期連戦が組まれているところに、悪天候で中止になった試合が休養日に組み込まれたり、ダブルヘッダーが組まれたりすることで、さらに苛酷さが増します。

 日本のプロ野球のように、基本的には”上がり”という先発投手の休養日がメジャーにはありませんので、疲労が蓄積している時期に、長距離移動をともなう長期連戦となり、短い登板間隔をこなす必要があります。2014年は、その長期連戦がある8月から9月にかけて田中投手は長期離脱しましたので、メジャーで一番ハードな時期をまだ経験していません。

 ヤンキースの試合日程(2015年4月20日時点)は、オールスター明けの7月17日から最終戦の10月4日の80日間で6日しか休養日がないというハードな日程で、さらには8月11日から10月4日までの54日間で51試合というハードスケジュールが組まれています。ここに雨天中止となった試合が入り込んでくる可能性があるという、日本では考えられない苛酷さです。

 ヤンキースは先発ローテ6人で固定するつもりはないとシーズン開幕前にキャッシュマンGMが話していたものの、田中投手の右肘だけでなく、サバシアは左膝が手術明け、ピネダは肩の故障歴があるため、長期連戦の時に一時的な6人編成とする可能性があることは否定していません。

 現在5番手に入っているリリーフのアダム・ウォーレンに加えて、故障者リストに入っているクリス・カプアーノが5月には復帰予定で、トミー・ジョン手術を受けて6月には復帰することが予定されているイバン・ノバなどがいますので、一時的な6人編成には対応できるとは予想されますが、故障者が増えればそれも難しくなるのではないでしょうか。

 肘の問題があるため、無理な中4日の連続での登板は少なくなるとは予想されますが、これだけの長期連戦の中で先発ローテを守ることは初体験となりますので、シーズン終盤の長期連戦を乗り越えるということも、今後の課題になると思います。

 4月18日のレイズ戦では7回85球で投げきり、被安打2、無四球の奪三振8と素晴らしい内容でしたが、レイズ打線が強力ではないことや、田中投手の新しい投球スタイルに関するデータが少なかったということもあったでしょう。

 次回、田中投手の登板はジラルディ監督が明言しているように、23日(日本時間24日)メジャー屈指の強力打線であるデトロイト・タイガース戦に今シーズン初めて中4日での先発になる予定です。また、その後はレイズと2回目の対戦となり、ブルージェイズ、オリオールズの強力打線との対戦となる可能性が高いスケジュールです。

 今回の登板で新しい投球スタイルに対する光明を見出したことは間違いありませんが、少なくともこの5月10日のオリオールズ戦が終わるまでは、メジャーでシーズンを通じて通用するものなのかどうかを判断するのは、時期が早いと言えるのではないでしょうか。まずはシーズン序盤で貯金をどこまで伸ばせるか?注目したいです。
著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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