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戦列復帰後の田中投手の投球スタイルは?

 

右手首のけん炎と右前腕部の張りで故障者リスト入りして約3週間が経過。戦列復帰後の投球に注目が集まる(Getty Images)


 2014年に続き2015年も故障で戦列を離れたニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手。彼を数年見てきた中でいくつかのパターンが見えてきたので、今回のコラムは田中投手の投球についてお伝えしたいと思います。

原則3パターンの投球スタイル


パターン1:ファストボールとスプリットだけで試合を押し切ろうとするピッチング。
パターン2:カットボールやシンカーを混ぜて、相手のタイミングを外そうとするピッチング。
パターン3:ツーシームを中心に相手の狙いをかわそうとするピッチング。

 ここでお伝えしたいのは、どんなピッチングパターンに変わろうと、どんなに肘に負担がかかろうと、田中投手は「スプリットを全く投げないわけにはいかない」という事です。何故なら、田中投手の生命線が「スプリット」だからです。

 我々メジャーリーグのチームには各チームに3人から4人程の先乗りスコアラーがおり、常に先で対戦するチームのデータ収集をしています。我々スカウト陣も自軍がプレーオフに進出すると先乗りスコアラーと同じ行動をとる事になります。田中投手が2014年にメジャーリーグデビューを飾ってから先程述べました「パターン」が見えてきました。

 デビューした2014年の配球パターンは「パターン1」で開幕し、「パターン2」で夏を乗り切ろうとした、というデータが残っています。

 近年のメジャーリーグはスカウティングリポート(データ収集)が発達しているので、田中投手の配球スタイルが読み切られるのにはさほど時間が掛からなかった事になると思います。2014年の春先に使った球種は、ファストボールとスプリット中心でしたが7月のクリーブランド戦で田中投手の球種が大きく変わっていた事は一目瞭然でした。

(1)ファストボールが減少
(2)カットボール、シンカーが急増

 また4番目に高い球種であるスライダーについてはわずか26.7%しかスイングをしてもらえなくなっていたのです。それは何を意味するかというと「田中投手に対する絞り球が絞られてきた」という事になるのです。田中投手にはチェンジアップがありません。

 お伝えするまでもありませんがチェンジアップやカーブ、キレのあるツーシームといった、フォーシーム以外の「球種」を持たない投手が「ストレートを投げない」という事は、メジャーリーグの場合、打者に狙い球を絞られる事を意味すると私は思います。

 また「パターン」について話を戻すと、2月のスプリングトレーニング、田中投手がパターン1、パターン2を捨てて、ツーシーム主体のピッチング、つまり パターン3に切り替えようとしているとオープン戦をみると直ぐに分かりました。

 これは私の想像ですが、肘の故障をかかえているために、ストレートを全力投球する能力が失なわれ、さらに肘に負担のかかるスプリットも多投できなくなって、こんどはツーシームに頼ろうとしている印象でした。ツーシームを投げるピッチャーが山ほどいるメジャーリーグでは、バッターたちはツーシームの球筋には慣れているのです。

現在の田中投手はボストン時代の松坂大輔投手のフォームに似ている


 そして、私が気になる点は彼の投球フォームです。今の田中投手は足先が横を向いたままステップしています。これでは、落ちた球速をコントロールの良さで補おうとしても、そのコントロール自体が安定しません。

 この投球フォームで投げていたのは、トミー・ジョン手術前の、ボストン・レッドソックス時代の松坂大輔投手です。松坂投手も田中投手も左足つま先は、ホームプレートではなく、「サード方向」を向いたままです。

 コントロールを安定させるためには、左足つま先を完全に「ホームプレート方向」へ向け、顔もホームプレートに対してまっすぐ向ける必要があります。そうすることで、ストライクゾーンをまっすぐ見て投げることができ、コントロールがつきやすくなるのです。上半身は骨盤に対してまっすぐ直立した状態をキープしているため、ぐらつきが少なくフォームも安定するのです。

 遠からず田中投手はトミー・ジョン手術を受け、長期休養することになると思います。もう彼のスピードボールはもう90マイル後半を記録することはないかもしれません。同じスピードで来るボールが、ストレートだったり、スプリットだったりして、打者を幻惑するのが彼の配球の持ち味だったわけですが、ストレートが死ねば、スプリットの威力も落ちるので今回の故障後、復帰した後の登板ではどの「パターン」でくるのか? または新たな「パターン」での投球をするのか? 彼の投球に注目をしてみたいと思います。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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