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大リーグ キッズ開拓時代へ

 



6歳〜8歳に飽きさせない仕掛けとは


 先日、ボストンレッドソックスの本拠地フェンウェイパークに行った時の事です。「ゲートK」というゲートをみつけました。KIDSのKの頭文字を取った「ゲートK」、球団関係者に聞いた所、少年少女ら専用の入り口との事で、これはメジャーリーグでも初の試みだという事です。

「ゲートK」を抜けるとそこはまるで、サーカス場の様に竹馬を履いた3メートル超える大男が少年少女らを出迎え、さらに記念撮影用のチームマスコットが並んでいます。日本のメジャーリーグファンの方ならご存じだと思いますが、レッドソックスは820試合連続で本拠地のチケットが売り切れた記録を持っており常にボストンは野球ファンで観客席は埋まります。

 先日、アメリカのメディアで知ったのですが、各球団には独自なデータがあるそうです。※私も同じ球団職員ですが、各セクションが違うので私も知りませんでした。その内容は、子供の頃に球場に来た人は来なかった人に比べ、約3倍の確率で「大ファン」になり、またその子は将来、自分の子供とも少なくとも年に1、2回は試合に連れてくるそうです。

年会費はタダ


 レッドソックスは2015年から40ドル(約4,500円)だった子供専用ファンクラブ(14歳以下)の年会費を0円にしたそうです。15歳以上の学生には2014年大リーグで最も高かった平均約6,280円のチケットを約1,000円で販売をしています。

 幅広い年齢層のファンを開拓したいそうですが、狙いは6歳〜8歳の子供たち。大人になってから「いつ野球が好きになったか?」と聞けばこの歳が一番多いとのことです。イチロー選手がいるマーリンズや田中将大投手がいるヤンキースでは、試合後のグランドを子供たちに開放する日を設けて若年層の開拓に力を入れています。

 アメリカのスポーツケーブル局ESPNが去年に発表をした人気調査では、大リーグは1位のアメリカンフットボールに次ぐ2位。ところがが12歳〜17歳という年齢層に限ると、NFL、NBA、大学バスケットに続く5位に。一方、メジャーリーグのファンの高齢化も目立っております。2014年のテレビの視聴者の平均年齢は57歳。一方、NBAは平均40歳でした。

 メジャーリーグでは今季から試合のスピードアップを図り、子供たちを飽きさせない取り組みをしています。2014年の大リーグの総収入は約90億ドル(約1兆1千億円)となっていますが、若い世代を魅了する効果的な戦略を探していかなければならないのです。

危機感は常にある


 ここまでメジャーリーグが血まなこになるのは、野球に対する関心度の変化です。メジャーリーグのワールドシリーズは、アメリカンフットボールのスーパーボール、夏季オリンピック、サッカーW杯に続いてブランド価値の高いスポーツイベントとして認識されていましたが、ワールドシリーズの視聴率は1980年の32.8%をピークに低迷し、ここ数年、全米平均で10%未満が続いています。

 ちなみに、スーパーボウルの全米視聴率が2012年に過去最高の47.0%を記録しました。野球は、まだまだアメリカを代表する娯楽と言えますが、このままファン高齢化が進めば、近い将来今の地位から転げ落ちるのは、そう遠くないのは明らかだと思います。

 我々スカウトも球団職員ですが、同じ球団職員でもチケット販売、マーケティングなどの他部署の活躍もありひとつの球団が成り立っている事を日本の皆様にも知って欲しいと思います。

写真=Getty Images

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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