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野球で、人を救おう

第3回 野球によって人生が輝く子どもたち

 

 メジャー・リーグが支援している社会貢献プログラムのひとつに、「RBI」というものがあります。

 RBIは、Reviving(復活させる)Baseball(野球を)in Inner Cities(都心部で)の意味で、簡単に言うと都心部(特に経済的に恵まれない地域)の少年少女たちに野球(またはソフトボール)を楽しむ機会を提供するプログラムです。

 このプログラムは、競技力の上達を一番の目的とするものではありません。子どもたちが時間を持て余してドラッグやアルコール、暴力などに走るような事態を防ぐため、スポーツで発散できる機会を提供しようということで作られたものです。

 このプログラムは世界200以上の都市で実施されており、特にアメリカ国内ではさまざまな地域にRBIの少年野球リーグが存在します。中でも成功例として注目されているのがニューヨークのハーレム東地区にある「ハーレムRBI」です。

 ハーレムRBIには、年間1500名以上のハーレムの子どもが参加しています。これは2012年のデータですが、この地区に住む子どもの約58%が高校を中退してしまうのに対し、ハーレムRBIに参加している子どもは96%が高校卒業というゴールをクリアしています。そして、93%の子どもが大学の入学許可を得ています。また、アメリカには望まない妊娠の増加という深刻な社会問題がありますが、ハーレムRBIでは99%の子どもがそれを避けることができています。

▲ハーレム東地区の真ん中にある『フィールド・オブ・ドリームス』は、ハーレムRBIの子どもたちや地域住民の交流の場となっている



 その背景にあるのは、学習システムや人間教育システムの充実です。RBIではプログラム共通の方針として教養を高めることが重視されていますが、特にハーレムRBIでは読み書きのクラスで学校の勉強をサポートしたり、チームワークや社会性を高めるためのクラスを設けたりと、総合的な人間力の向上に力を入れているのです。その種のクラスは年々充実し、ハーレムRBI運営の「ドリームチャータースクール」という学校を設立するまでに至りました。

 昨年、ハーレムRBIの子どもたちに会って将来の夢を聞いてみたところ、「メジャー・リーガーかお医者さん」といったように、野球はもちろん、それ以外の道にも興味を示していました。また、大学に進学したOBが「ハーレムRBIに出合えて将来の可能性が広がった」と話しているのも印象的でした。

 89年のRBI発足以降、200名以上のRBI出身者がメジャー・リーグの球団からドラフト指名されていますが、その他大勢の子どもはなんらかの理由で野球を辞めています。しかし、たとえ野球で成功しなくても、しっかりと教養を身につけ、勉学に励んだ子どもには、いろいろな選択肢が残されているのです。

 ハーレムRBIは今年、トロント・ブルージェイズの社会貢献部門「ブルージェイズ・ケア」とともに、優れた慈善活動を行ったスポーツ団体として表彰を受けました。

 子どもたちを幸せに導くハーレムRBIの取り組みは、今後さまざまな少年野球の現場の手本となることでしょう。

 日本でも、野球だけやっていればいいという時代はもう終わり。野球に出合えたおかげで人生の選択肢が広がった――子どもたちにそう思わせるだけのパワーと魅力が、日本の野球にもきっとあるはずです。
文=岡田真理
野球で、人を救おう

野球で、人を救おう

海外や日本の事例を基に、野球による貢献を考える短期集中連載。

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