週刊ベースボールONLINE


ヤクルトのVを支えた救援投手陣の貢献度

 

過去2年連続最下位だったヤクルトが10月2日に14年ぶり、7度目のリーグ優勝を決めた。昨年は首位の巨人に21ゲーム、5位のDeNAにすら6.5ゲーム差をつけられ、今年も5月16日現在では1位に8.5ゲーム差の最下位であった。そんなヤクルトがなぜ大混戦を制して優勝できたのか。その大きな要因の1つが昨年より大きく進歩していた投手陣にある。

3人の助っ人の奮闘がブルぺンに安定感をもたらす


 昨年もヤクルトは打線に関してはピカ一であった。打率.279はリーグ1位であり、本塁打139本は第3位。さらに得点667もリーグ1位であるから投手陣がしっかり整備されていたら、上位進出は十分可能であった。

 しかし、チーム防御率4.62は5位の阪神にも0.74の大差をつけられてのリーグ最下位であった。今年もチーム打率.257は1位。首位打者は.336の川端慎吾、本塁打王は38本の山田哲人、打点王は105の畠山和洋と同一球団の3人でこの3タイトルを独占するのはプロ野球史上初めてと、昨年以上の強力打線を発揮した。

 加えて今年は防御率が昨年の4.62から3.31と飛躍的に向上していた。と言っても投手10傑には10位に小川泰弘が登場しているだけ。投手陣の向上は救援投手陣の奮闘にあった。13年には防御率4.11、14年には4.58であった救援陣が15年は2.67と大幅に向上していた。

 13年のヤクルトは144試合で完投は8で、延べ453人の救援投手をマウンドに送って防御率4.11で19勝28敗31セーブ。14年は144試合に完投5で救援投手は443人で防御率4.58の16勝21敗31セーブ。13年のチーム防御率は4.26であり、14年も4.62とは救援投手たちの防御率はチーム成績とは大差なく、救援の名にそぐわなかった。それが15年に救援投手は2.67でチーム防御率の3.31よりもはるかによくなっていた。「救援」の名にふさわしい働きをしていた。

 救援投手の総数は延べ454人と、前2年と大差なかったが、実際にマウンドに立ったのは13年の21人、14年の24人に比べてはるかに少ない15人。少数精鋭で臨んできた15年の救援投手陣であった。13年の最多登板は山本哲哉の64試合、14年も秋吉亮の59試合だ。

 しかし、15年は秋吉が74試合、オンドルセクが72試合と、70試合以上が2人も出ていた。少数精鋭が2人の負担を重くしていた。次にバーネットが59試合、ロマンが58試合。外国人投手3人がいずれも50試合以上に登板し、防御率はバーネットが1.29、オンドルセクが2.05、ロマンが2.12と好投していたことが、ヤクルト救援投手陣躍進の原動力になっていた。



陰のMVP級の活躍を見せたバーネットの存在


絶対的守護神として41セーブをマークしたバーネット。ヤクルトVの立役者の1人と言ってもいい大車輪の活躍だった



 今年のヤクルトは主力2人の外国人打者の欠場が多かった。バレンティンは15試合、ミレッジは24試合の出場に留まり、2人そろって出場したのはゼロという予想外の結果に終わった。

 2人合わせて119打数24安打で.202であり、本塁打は1本ずつの計2本で15打点。途中で外野手のデニングを補強したが、外国人打者1人の時期が長かったので、1試合に4人までという外国人枠の制限があっても、その一方で3人の外国人救援投手をフルに活用できるという思いがけない好結果も生んだ。

 3人の先頭となったのはバーネットである。来日6年目。1年目は16試合のうち15試合に先発する投手であったが、2年目の11年から救援専門となった。3年目の12年には防御率1.82で33セーブを挙げ、中日岩瀬仁紀と並びセーブ王となったが、13年には防御率も6.02で7セーブと成績はガタ落ち。14年は防御率も3.34で14セーブと回復し、15年は1.29の驚異的な防御率で41セーブを挙げた。

 思えば今年の両リーグの優勝球団は2人の外国人投手に助けられていた。ソフトバンクサファテが5勝41セーブであり、ヤクルトは3勝41セーブのバーネットだ。

 サファテはメジャーで92試合に登板し(先発4)、5勝4敗で防御率4.53の実績を残していたが、バーネットは全くメジャー歴がない珍しい投手だ。ダイヤモンドバックスの傘下にあり、06年にルーキー・リーグからスタートし、07年はAクラスで8勝8敗、08年は2Aで11勝7敗、09年は3Aのパシフィックコースト・リーグのレノで29試合に14勝8敗だったところでヤクルト入りが決まった。メジャーに昇格することはなく、10年に来日した。12年に33セーブを挙げたとき走者得点圏での被打率は.135と相手を徹底的に封じていたが、今年も.136だ。



 来日してから昨年までの5年間に23本塁打を許していたが、今年は62回2/3でわずかに1本。終盤9月10日のDeNA戦(神宮)で、宮崎敏郎に入団3年目の初本塁打を許した1本のみである。

 このバーネットを中心にして、ヤクルトの救援の外国人トリオは、196回2/3で自責点40とあって、防御率1.83だ。加えて、秋吉はチーム最多の74試合に投げ2年連続の最多登板で防御率2.36だ。38試合で0勝0セーブとはいえ、防御率2.55の左腕.久古健太郎の存在も見逃せない。

 救援投手が優秀なだけに、先発を無理して続投させることはない。今年の完投は石川雅規が4月11日の巨人戦、山中浩史が8月11日の広島戦、小川泰弘が翌12日の広島戦でマークしたわずかに3試合。優勝球団の最少完投記録である。先発要員の石川は「リリーフがいいから最初から全力で飛ばせる」と語っていた。

短期決戦でもこの投手力が発揮されるか


2メートルを超す長身から投げ下ろす150キロ超の直球を武器にフル回転の活躍を見せたオンドルセク。勝利の方程式の一角としてチームの躍進を支えた



 ヤクルトの継投策がいかに成功していたか。5投手をリレーした33試合でも21勝12敗で勝率.636である。6投手で8勝8敗1分けの.500であり、7投手リレーの4試合では負けなしの3勝1分け。普通、5人以上をリレーした試合は苦し紛れの継投で、勝率はグンと下がるのが当たり前なのに、だ。



 5人以上起用した試合でヤクルトは勝率.615で、中日は.548、巨人でも.500だが、DeNAは.443、阪神は.357、広島は.250である。

 ほかの5球団が7人以上もリレーした試合のトータルは4勝5敗2分けであるのにヤクルトは3勝0敗1分け。今年の継投策がいかにうまくいっていたかの何よりの証明である。

(1)4月19日対DeNA=9対8(12)
(2)5月21日対DeNA=4対3(11)
(3)8月30日対阪神=11対8
(4)9月13日対中日=2対2(12)
(末尾のカッコ内は延長イニング数)

 (1)(2)は延長戦の末にサヨナラ勝ちであり、(3)は8、9回に計7点を奪われたが、逃げ切り。(4)は7、8回で同点として引き分けだった。バックの守備が投手をもり立てていたのも見逃せない。昨シーズンのヤクルトは144試合で97失策していたが、今シーズンは143試合で71失策にまで減った。昨年よりもマイナス26失策である。

 昨年は30失策もしていたヤクルトの外野手が今年はわずかに8失策。昨年は106試合で7失策の上田剛史が今年は77試合で失策ゼロである。強肩を示す外野手の中継なしの補殺も昨年は10であったが、今シーズンは17もある。バックの好守備に助けられていた今年のヤクルト投手陣である。

 守備力を含めてすべてに向上していたチーム力に投手陣も助けられていた。投手力の優勝といっても、それはチーム全体の総合力の優勝である。この力がこれから先の日本シリーズにどう発揮されるのか。注目していきたい。
記録の手帳

記録の手帳

プロ野球アナリスト千葉功によるコラム。様々な数値から野球の面白さを解説。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング