週刊ベースボールONLINE

美学を貫いた男たち

超の上に超がつく名人・稲尾和久

 

奇人、変人が三原脩監督の手で名人に昇華、最強西鉄が実現した。その三原の心の内を最もよく知る超の上に超がつく名人。
文=大内隆雄、写真=BBM

三原の「パッと咲き、パッと散る」チーム作りをよく知り、稲尾はあえてそれに乗った


 稲尾和久という人は、恐ろしく酒が強かった。西鉄黄金時代のチームメートだった豊田泰光がよく言っていた。

「西鉄は大酒飲みが多かったけど、稲尾が一番強かった。中西さん(太)も仰木(彬)も好きだったけど、本当に強くはなかった。しかし、稲尾だけは別格だった。強いし、酒にのまれない」

 そういう稲尾を見る機会があった。1999年の暮れだったが、「20世紀の奇跡の最強チーム西鉄ライオンズのすべてを語る!」というテーマで週刊ベースボール誌上で、稲尾と先の豊田に対談してもらったことがあった。場所は福岡市の稲尾のよく行く小料理屋の2階。対談中に、2人とも酒がすすみ、最後の方では、豊田はかなりの酩酊状態。しかし、稲尾はまったく乱れず、グラスを口に持っていくペースも変わらない。終了後は下の店で飲み直し、食い直しとなったが、豊田はダウン。しかし、筆者の隣の稲尾は日本酒を自分のペースで実においしそうに飲んでいた。肴は稲尾も筆者もイワシの梅煮とでもいうのか、とにかくそんなもの。まあ、稲尾の好物なのだろう。

 ほとんど酔っていないように見える稲尾が「このあたりがちょうどいい。帰ります」とサッと立ってサッと出ていった。筆者は、その後ろ姿を見送ったのだが、酔っ払い特有の体が左右に揺れるなんてことはまったくなく、サラリーマンが駅に急ぐような足取りで消えていった。これだけ見事な飲みっぷりと去りっぷり(?)の人間を筆者は初めて見たのだった。この体力、自制心あっての、あの1958年の対巨人日本シリーズ3連敗後の4連勝だったのだと感じ入ったものだ。

 酒が入った対談は、えてして支離滅裂になってしまうものだが、稲尾がシャキッとして、しかも、チームの先輩を立てるから、これはいい対談になった。その中から稲尾の「なるほど!」と思わせるセリフを少し紹介してみる・・・

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