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引退を表明した2選手
苦悩と葛藤の末に決断

 

 今季の球界では中日山本昌投手ら多くの名選手がユニホームを脱ぐことになりました。オリックス・バファローズでは谷佳知外野手、平野恵一内野手が今季限りでの現役引退を表明しました。

 谷選手は通算2000安打にあと77本で迎えた今季は、開幕二軍スタートでした。春先には「77本の半分ぐらい打てば来季があるかもしれないが、打てなければ踏ん切りをつけないといけないな。今年が最後のつもりで頑張ってくれ」と激励したことを覚えています。その後、一軍でプレーすることもありましたが、なかなか好結果は出ませんでした。力が落ちていることは誰より本人が分かっていたと思います。



巧みなバットコントロールが際立った谷佳知[上]に、ヘッドスライディングなどガッツあるプレーで魅了した平野恵一[下]。ファンに愛された2選手が今季限りで引退を表明した[写真=佐藤真一]



 夏真っ盛りの頃「今の状況では2000本は厳しいね」と話し、現役引退した上で来季のコーチ就任を打診しました。谷選手は既に覚悟は決めていたと思います。あうんの呼吸だったようにも感じました。間もなく伝えられました。

 一方、平野選手は自らキャンプの二軍スタートを志願してきました。暖かいところで自分のペースで調整したいとのことでした。万全を期したのですが、開幕後は5月を最後になかなか一軍に上がれませんでした。尻をたたくつもりで8月に「まだ上がってこられないのか」と尋ねました。すると「いつでも大丈夫ですよ!」と例によって軽口をたたいてきたのです。さらに「瀬戸山さん、痩せましたね」と全く関係ないことに話題を変えたので「人のこと言っている暇あったら、早く上がってこい!」と返しました。その後の雑談の中で平野選手は、静かにこう言っていました。「瀬戸山さんがいる間に優勝したかったですね」――。

 そのときは私が今季限りでチームを去るとみた、お調子者の平野選手独特の言い回しだと思いました。しかし、今にして思えばそうではなかった。彼も既に覚悟を決めていたのでしょう。

 9月。私は来季の現役続行を見据え「シーズン終盤には試合に出てこられるのか」と聞くと、唐突に「もう引退します。限界です。シーズンの1年間を全うできない体になりました」と答えたのです。谷選手とは対照的に、予想外の形で引退を伝えられたのです。

 両選手ともオリックスでプロ入りし、その後、谷選手は巨人、平野選手は阪神と他球団でプレー。最後にオリックスへ復帰したという共通点があります。決断まで両選手とも葛藤し、苦悩したことでしょう。それでも、数多くの選手の引き際を見てきた私にとっては、思い入れがあるチームで最後を迎えられ、幸せな選手生活に見えました。

 最後になりましたが、阪神の中村勝広ゼネラルマネジャー(GM)がお亡くなりになりました。誠実なお人柄で、ロッテ球団社長時代にはプロにとどまらず、中村GMの出身地千葉のアマ野球界からの信頼を目の当たりにしたこともありました。謹んでお悔やみ申し上げます。

PROFILE
せとやま・りゅうぞう●1953年9月18日生まれ。大阪府出身。大阪・住吉高から大阪市立大を経て77年にスーパー大手のダイエーに入社。88年に南海ホークス買収に尽力し、福岡ダイエーホークスに出向した。94年には代表に就き、2003年12月退団。04年3月、ロッテの代表に就任。球界再編問題が起きた04年には日本プロ野球組織の選手関係委員長として選手会と交渉した。06年から社長を兼任。12年からオリックスへ。
セトヤマ雑記帳

セトヤマ雑記帳

オリックスの球団本部長の要職を務める瀬戸山隆三がチーム運営について語る連載コラム。

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