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北方悠誠 入来コーチの“叱咤”に涙。崖っぷちからの巻き返しを狙う

 

昨年末に育成選手としてソフトバンクと契約。背番号は137。今季は3軍で調整を続けている(写真=BBM)



3軍でもがく日々。7月の韓国遠征が飛躍のきっかけになるか


 長い長いトンネルの出口から、抜け出すにはまだ時間がかかりそうだ。DeNAから今季、育成選手としてソフトバンクに移籍した北方悠誠がもがいている。ここまで2軍はおろか、3軍でも結果が出せていない。5試合に投げて防御率23.63(7月17日現在)。新天地でもその素質を開花できていないのが現状だ。

 北方は佐賀県立唐津商高から横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)に2012年ドラフト1位で入団。2013年秋に参加した台湾リーグでは最速158キロを出し、3年目には春季キャンプで1軍入りするなど、確実にステップアップしているかのように思われた。だが、その年、開幕直前に2軍降格。ここからトンネルに入ってしまった。

「2軍に落ちるときにコントロールを何とかしてこいと言われたんです。そこから腕が振れなくなってしまった。それで、色々考えすぎてわからなくなってしまって…」

 縮こまってしまった結果、制球力が改善されぬまま、球威だけが落ちたという。サイドスローに一時転向するなど迷走したが、シーズン中盤以降の直球は130キロ後半しか出なくなった。そしてそのまま浮上の兆しが見られず2014年自由契約になった。

「野球を続けたい」。そう思っていた右腕に救いの手をさしのべたのが、地元九州の球団、ソフトバンクだった。

 ソフトバンク3軍では今季から、かつて巨人などで活躍した入来祐作氏が投手コーチに就任した。昨季まで北方と同じDeNAに所属。用具担当という裏方の仕事でチームを支えていた。キャンプ地近くの川でウナギ採りをする姿が話題になったこともあった。

「新人時代から近くで見てきたので、北方の素質はよくわかっています。素晴らしいものを持っている。だからこそ、現状にもどかしいものを私は感じています」

 入来コーチは、伸び悩む右腕に、どうにか飛躍してもらおうと必死だ。

 6月下旬のある日、3軍が練習する西戸崎合宿所でのこと。入来コーチが北方をブルペンに呼び出した。

「お前が頑張っているのは知っている。でも、もっとできる。なぜ死にものぐるいでやらないんだ」

 北方は決して、練習量が少ない方ではない。だが、他の選手と比べて突出して多いわけでもなかった。それまでは自主性を重んじて、特別なことは言って来なかった入来コーチだが、現在の立ち位置を自覚してほしいという思いから、あえて練習場に響き渡る大きな声で“叱咤”した。

 入来コーチは続けた。

「家族、球団スタッフ、友人、知人…。どれだけの人に支えてもらっているか、考えたらもっともっと汗を流せるはずだ。違うか」

 真剣に耳を傾ける右腕のほおには大粒の涙がつたわっていた。それ以降、北方は目の色が変わった。7月上旬に約10日間参加した3軍の韓国遠征では、連日のブルペン入り。平均100球ほどを毎日投げ込んだ。

「腕を思い切り振れるフォームをつくるために、必死で投げ込みをしました。今はボールの指のかかりもいい。久々の感覚です」

 まだ実戦では結果を出していないが、韓国では最速146キロをマーク。復調の手応えを感じている。

 とはいえ、前途は多難だ。常勝チームとなったソフトバンクは層が厚く、1軍であぶれた投手が2軍で投げている。押し出される形となり、3軍戦で、本来2軍クラスの選手が調整登板することも多い。

 そのため3軍戦と言えど、簡単に登板の機会を与えられるわけではない。

「今の僕の実力では、大量に勝っているか負けている時しか投げさせてもらえない。ブルペンでアピールして信頼を勝ち取らないといけない」

 まず3軍で登板機会を得て、結果を出し2軍昇格へ。さらにそこで結果を出して、やっと支配下登録の可能性が出てくる。

「僕に残された時間は少ない」

 危機感は強いが、モチベーションを保ち、崖っぷちからの巻き返しを狙う。
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