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山田哲人を本気にさせた高校時代の苦い経験

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

恩師の激励に応えるかのように、走攻守すべてにおいてチームの勝利に貢献している山田



高校2年の終わりに別人のように変わった


 まさに飛ぶ鳥落とす勢いといったところだろう。東京ヤクルト山田哲人だ。28日現在、打率.330(3位)、23本塁打(1位)、60打点(3位)、18盗塁(1位タイ)と打撃4部門でリーグトップ3に入っている。史上初の4冠への期待も膨らんでおり、ダンゴ状態が続く優勝争いとともに、セ・リーグの話題の中心となっている。

 昨季、プロ野球史上初の6カ月連続初回先頭打者本塁打を放ち、最終的には最多安打(193)を獲得するなど、プロ4年目で大ブレイクした山田。その打撃力がホンモノであることを証明するかのように、今季もここまで絶好調だ。

 もともと山田は高い素質を持った選手だった。履正社高校時代、3年間、山田を指導した岡田龍生監督は「足が速く、身体能力はずば抜けていた」と語る。だが、例えば同じ履正社出身のT-岡田(オリックス)が入学時からプロ入りを熱望して努力を重ねたのとは異なり、山田は淡々とこなしているに過ぎなかったという。

「身体能力が高い山田は、特に努力しなくても、ふつうに練習すれば、たいていのことは人並み以上にできてしまう。本人は、それ以上のものを求めてはいなかったですね。私としては『もっと頑張れば、プロに行ける素材なのにもったいないなぁ』と思っていました」

 そんな山田がまるで別人のように変わったのは、2年の終わりだった。

「進路をどうするかという話をした時に、いきなり『プロに行きたい』と言ってきたんです。いやぁ、驚きましたよ。それまで、そんな素振りは一切見せていなかったですからね」

 しかし、それは口先だけのことではなかった。その冬から目の色を変えて、トレーニングに励み始めたのだ。走攻守すべての面において「それなりに」だった姿勢が、常に全力で取り組むようになった山田を見て、岡田監督も本気度を感じたという。

 では、果たして何がそこまで山田を変えたのか。岡田監督には、思い当たる試合があった。2年秋の府大会、準々決勝でのPL学園戦だ。この試合で山田は痛恨のエラーを犯した。ショートのやや後方へと上がったフライ、岡田監督いわく「平凡ではないが、決して難しくはない」打球を落球したのだ。このエラーでの失点が大きく響き、履正社はベスト8で敗退した。山田が「プロ」という言葉を口にし、努力し始めたのは、この敗戦の後のことだった。もしかしたら、この敗戦がなければ、現在の山田の活躍はなかったかもしれない。

 さて、岡田監督は昨オフに母校のグラウンドを訪れた山田にこう語ったという。

「(ブレイクした)2年目の来年が大事だからな。3割、30本、30盗塁を目指して頑張れよ」

 山田はその時はいつものマイペースな調子で笑っていたようだが、今季の活躍を見ると、しっかりと恩師の言葉を胸に刻んでいたに違いない。

 後半戦に入っても、勢い止まらぬ山田は果たして、どこまで数字を伸ばすのか。球団も熾烈な優勝争いを演じており、神宮の夏はさらにヒートアップしそうだ
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