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ピンチの時こそ力を発揮 西武・十亀剣

 

文=斎藤寿子 写真=BBM

気持ちを前面に出して投げるスタイルでチームをピンチから救ってきた十亀。今季は8月5日現在で16試合7勝5敗、防御率3.45



アマチュア時代からチームのピンチを救ってきた


 ついに球団ワースト記録を更新してしまった。4日、埼玉西武は一度は同点に追いついたものの、リリーフ陣が踏ん張ることができず、東北楽天に敗れて13連敗を喫した。リーグワースト2位と沈んでいるチーム防御率3.77の数字が表わす通り、投手陣の立て直しは不可欠だろう。

 個人的には、チーム浮上のカギを握るのが、同じ1987年生まれの2人、野上亮磨十亀剣だと考えている。とりわけ今季、殻を破った感があり、プロ初の2ケタ勝利が期待される十亀がいつ復活するかに注目している。

 十亀は名門・愛工大名電高出身で、甲子園にも出場した経験をもつ。だが、エースではなく、2番手投手だった。それは大学、社会人でも同じだった。しかし、彼の貢献度は決して小さくはない。常にエースの穴を埋める活躍をしてきたからだ。

 例えば高校時代、十亀が3年の春、愛工大名電はセンバツで全国優勝を果たしている。この時、「十亀がいなければ、優勝はできなかった」と語るのが、同校の倉野光生監督だ。準決勝の神戸国際大附高戦、愛工大名電は4回まで3−1とリードしていたが、5回裏に一挙4失点を喫し逆転されてしまう。しかし、6回表にお返しとばかりに4得点を挙げて再逆転し、再び2点のリードを奪った。

 その裏、倉野監督は疲労の色が濃いエースに代えて、十亀をマウンドに送った。この時の心境を倉野監督はこう語っている。

「当時はその日、投げてみないとわからないといった感じで、とても計算できるような安定したピッチャーではありませんでした。ただ、その時は一度は向こうにいった流れを、打線が引き戻してくれた大事な場面。行ったり来たりしている主導権を完全につかんで勢いに乗るには、安定感よりも力づくでもぎとる強さが必要だと考えたんです。そういう意味では、気持ちを前面に出して投げる十亀しかいないと。それで賭けに出るような気持ちで彼に託しました」

 倉光監督の期待に応え、十亀は4イニングを1失点に抑える好投でチームを勝利に導いた。「彼のピッチングのおかげで完全に流れがこっちに来た」と倉野監督。接戦を制した愛工大名電はその余勢を駆って、決勝では野上擁する神村学園に9−2で快勝し、春夏合わせて初の全国優勝を達成した。

 JR東日本でも、入社当初、十亀はエースの登板の合間に投げるくらいのポジションだった。ところが、入社1年目の秋、エースがケガを負ったことで台頭した十亀は、その翌年はエースとして活躍し、チームは都市対抗で初めて黒獅子旗を獲得したのだ。

 倉野監督は十亀の歩んできた道をこう評する。

「アイツの過去を振り返ると、人生って本当にわからないなぁとつくづく思いますよ。ずっと2番手だった彼が、ちょとしたチャンスをつかんで這い上がり、結局はドラフト1位でプロ入りしたんですからね。だから高校生にもよく言うんですよ。『レギュラーになれなくても、決してへこたれるな。やる気をもって自分の力を磨き続ければ、きっとスポットライトが当たるチャンスが巡ってくる。その時に力を発揮できるかで人生は大きく変わるんだぞ。先輩の十亀がいい例だ』って」

 さて今季、西武はエースの岸孝之を故障で欠いての開幕となった。エース不在のチームを、野上とともに先発の主戦として支えてきたのが十亀だ。エースを欠くピンチの時にこそ、力を発揮するのは今も健在であることを証明したと言っていいだろう。

 チームが大ピンチ真っ只中の今、再び力を発揮することができるか。十亀の復活が待ち望まれている。
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