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オリックス10位 杉本裕太郎 下位指名を覆すスラッガー候補

徳島商高から青山学院大へ進学。卒業後入社したJR西日本では2年目でチームの中心打者に成長した

 

自分自身を客観的に見られる冷静さが長所


「ダメかもしれないな……」

 本人も、そして自宅のテレビで見守っていた父親も、半ば諦めかけていたその時だった。彼の名前が会場に鳴り響いた。

杉本裕太郎

 オリックスからの10位指名。今年のドラフト会議で指名された88人中、87番目のことだった。間もなくして、指名されたことを告げる本人からの電話を受け取ったという父、敏さんは「正直、疲れました(笑)。とにかくほっとしたのが一番でしたね」と当時の気持ちを素直に語ってくれた。

 杉本にインタビューをしたのは2年前、彼が青山学院大学4年の春のことだった。身長189センチ(当時)の長身スラッガーで、2年秋には東都リーグ史上6人目となるサイクル安打を達成するなどして活躍し、ベストナインにも選ばれた杉本は、その年のドラフト指名候補の一人に挙げられていた。

 しかし、彼はその年、プロ志望届を出さず、社会人(JR西日本)に行くことを決意した。「このままではプロでは通用しない」という結論に至ったのだという。

 無論、悔しくないはずはなかっただろう。だが、杉本は家族の前では一切、そういう態度を示さなかったという。表情や口調にも、「優しさ」と「素直さ」がにじみ出ている杉本は、そういう男なのだ。

 社会人でも1年目から公式戦に出場した杉本は、都市対抗一次予選では3試合で2本塁打を放ち、二次予選でも打率.478の成績で、チームを本戦出場へと導いた。さらに日本選手権では4番を務めるなど活躍。しかし、今年は都市対抗、日本選手権ともに予選敗退。杉本も納得のいく数字を残すことができなかっただけに、指名されるかどうかは「五分五分」と見られていた。そんな中での指名は、たとえ下位でも、杉本は素直に嬉しいと感じたに違いない。

 父親は、息子についてこう語っている。

「裕太郎はぼーっとしているところがあって、素直過ぎるんです。意気込みとか、強い思いみたいなものがあまりない。でもね、高校、大学、社会人と、やっぱりプレッシャーはあったと思うんですよ。そういう厳しい中をくぐり抜けてきた、というところは父親として認めているんです」

 確かに厳しいプロの世界を生き抜いていくには、一見、杉本は優し過ぎるように感じる。しかし、その優しさが、自分自身を客観的に見ることのできる冷静さを生み出しているのかもしれない。

 杉本は小学4年からピッチャーをやるようになり、中学、高校でも親友で最大のライバルだった同級生と「ダブルエース」として活躍。大学もピッチャーとして期待を寄せられていたという。しかし、杉本自身はピッチャーとしての自分に限界を感じ、逆にバッターとしての可能性の方が大きいと考えていた。そこで入部してすぐに彼は監督にバッター転向を直訴したのだ。

 18歳にして、周囲の評価に惑わされることなく、冷静に自分自身の可能性を見出した杉本。プロの扉が開かれたのも、彼の冷静な判断なくしては訪れることはなかったに違いない。

 杉本裕太郎。足もある190センチの長身スラッガーが、プロではどんな姿を見せてくれるのか、楽しみだ。

文=斎藤寿子 写真=BBM
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