週刊ベースボールONLINE

Webオリジナルコラム
常に全力で 埼玉西武・星孝典「豪州で見つけたプロとしての生き方」

基本に忠実なプレーと明るい性格は派遣先のチーム「メルボルン・エイシズ」の首脳陣から高く評価された

 

豪州リーグで学んだ投手との意思疎通


 プロ野球とはいえ、マイナースポーツゆえの環境から、ダブルワークの選手も多いABL。試合が行われるのは主に金曜(週によっては木曜)から日曜の4試合。週に1日の休みを除きウイーク・デーには全体練習も行われるが、必ずしもチーム全員は集まらず、2時間程度で終わってしまう。日本人選手たちはこの“練習不足”を埋めるため、空いた時間にジムでトレーニングをし、全体練習に早出してランニングやバッティング練習を行う。

 今季埼玉西武から派遣された佐野泰雄山口嵩之藤原良平の4人の中で星は唯一の捕手(他3人は投手)であり、最年長。メルボルン・ヴァヴラ監督はそんな星を「恥ずかしがらず積極的に自分を出している。冷静に試合の局面も見ていて、忠実なプレーは若い選手の良いお手本。英語も一生懸命話すし、ここでの野球を楽しんでいるように見える」と評する。

「オーストラリア人、アメリカ人とも、本当にしっかり自分の意見を言いますよね。日本人はどちらかというと遠慮して、監督、コーチに言われたことに対し、まず、はい”と言ってから、自分の中で噛み砕く選手が多いと思うんです。それがこっちの選手は、自分で違うと思ったら、はっきり“違う”と言うところから始まる。それが日本の野球や文化に合うかは別として、自分の気持ちを明確な言葉にして表すことは、僕に足りない部分かもしれません。そういった“自分の意志を伝える術”を、ここで彼らから学びました」

英語で積極的にコミュニケーションを取り、チームを引っ張った(写真=SMP Images/Ian Knight)



 捕手というポジション柄、豪米出身の投手たちとのコミュニケーションは特に欠かせない。埼玉西武から通訳は同行してきているものの、日本で“外国人ピッチャー”とバッテリーを組むとき同様、マウンドまでは付き添ってこないからだ。

「配球を対バッターで考えるか、ピッチャーの良いところを引き出すリードをするのか。もともと自己主張の強い“外国人ピッチャー”たちは、自分の投げたいボールでどんどん押してくるところがあるんです。こちらに来て初めてラーキンスという投手と先発バッテリーを組んだとき、サインが全く合わなくて、首を振られてばかりでした。でも回を重ねるごとに、だんだん彼が“こういう場面ではこういうボールを投げたいんだな”ということが理解できるようになって、首を振られる回数も少なくなってきました」

 12月11日のアデレード戦では、そのラーキンスをリードし、チームを4安打完封勝利に導いた。バッティング面でも(規定打席に満たないながら)、17日現在の打率は.313。
「ただ四番目というだけで参考にはなりませんよ」と言うが、四番を任された試合もあった。MLBツインズの現役打撃コーチでもあるヴァヴラ監督からアドバイスをもらい、ある悪癖を修正。次第に手ごたえを感じているという。

課題であるバッティングの向上にも取り組んだ(写真=SMP Images/Ian Knight)



若手選手たちとの共同生活でも手本に


 さて埼玉西武オフの恒例となったこのABLへの選手派遣を“武者修行”と呼ぶのは、選手たちがアパートメント型のホテルに滞在し、自炊生活を行う環境面にもある。当初は年長の星が監督役として若手選手たちに頼られがちだったが、「2カ月もいるのに、命令されてやるようではダメだろう」と、皆でかわるがわる“キャプテン役”を務め、自然と役割分担するようになった。

豪州滞在中は慣れない料理にもチャレンジ(写真は星選手本人提供)



 同行の小野和義編成担当に「星パパ」と呼ばれる星が、うまい具合にその流れを作り出したわけだ。日本と同じようにはいかない生活、慣れない料理を楽しみながらも悪戦苦闘する様子は、星の個人ブログ『星の部屋』で、野球と並ぶ大きな話題である。

「日記代わりのブログですが、こちらに来てなんとか毎日更新できています。読んでいる方が1人でもいたらと思って。料理のネタもかなり出てきていますね。僕の手料理で一番評判が良かったのは、豚の角煮です。豚バラのブロックを買ってきて、前の晩から煮込んでいましたから(笑)」

 今月16日にメルボルンで開かれたABLのオールスターゲームでは、佐野と共に『ワールド・オールスターズ』(オーストラリア出身以外の選手で構成)の一員に選ばれ、『チーム・オーストラリア』と戦った。6回裏からマスクをかぶった星は、2対2の同点で迎えた7回表、二死満塁のチャンスに打席に立ったが、センター前に抜けるかと思われた打球がピッチャーに当たり、結果投ゴロとなる不運。チームは9回裏、「まさかのスクイズ」(星)でサヨナラ負けとなった。

ABLのオールスターゲームにも出場した。前列左から4番目が星選手(写真=SMP Images/Ian Knight)



「試合前にはイベントがあったり、バンド演奏もあったりして、日本以上に“お祭り”という感じでしたね。まずは楽しむことを第一に参加したんですが、結果としてあの二死満塁の場面で凡退し、(6回裏マウンドに上がった)佐野に勝ち投手の権利をあげられなかったのは心残りでした」

 オールスターは“呉越同舟”。先のアデレード戦で、ストライクの判定を不服として主審に詰め寄り、退場処分を食らったアデレードの三塁手・ウィクもチームメイトになった。そのときマスクをかぶっており、目の前で審判に食って掛かるウィクを「ついつい止めてしまった」のが星。ウィクとこの件について、また日米の野球文化の違い等々、話をすることができたのも、貴重な経験であり良い思い出だ。

ライオンズに影響を与えられる選手を目指して


全力プレーは地元の子どもたちの心をつかんだ(写真=前田恵)



 10月21日に始まった星のオーストラリア生活も、いよいよ残すところあと3日間、4試合のみ。

「シドニーでの最後の4試合(18日〜20日)を、この経験の集大成にしたいですね。そして来季は――もちろん一軍で活躍するのが一番ですけど、たとえ試合に出られなくても、チームになんらかの影響を与えられる選手にならなくてはいけない。今年で(森本)稀哲さんも引退しましたし、脇谷(亮太)さんも米野(智人)さんも移籍してしまった。ベテラン選手が減ってしまった分、その割を今度は自分が担わなければいけないと思うんです。ただし無理はせず、自分らしさは失わないで。自分だからこそできる、球団への貢献――チームの勝利への貢献を考えながら、そこは遠慮することなく実践していきたい」

 今季右手首の痛みがどうしようもなくなったとき、「もしかしたらこれでプロ野球人生が終わるんじゃないか」とまで考えた。あのときの思いからすれば、もはや怖いものも失うものも、星にはない。ただひたすら「自分にできること」を追求し、悔いなく最後までやり遂げるだけだ。

 遥か南のオーストラリアで、イニング間の投球練習の球を受けた後、ブルペンに全力疾走する姿、すねにデッドボールを受けながら何事もなかったかのように一塁へ走る姿にスタンドは沸き、いつからか『HASHIRU HOSHI』の横断幕がバックネット裏に掲げられるようになった。

 走れ星! 日豪のファンの声援を背に受けて。

PROFILE
ほし・たかのり●1982年5月4日生まれ。宮城県出身。176cm82kg。右投右打。仙台育英高から東北学院大を経て、05年ドラフト6巡目で巨人に入団。巨人では出場機会に恵まれなかったが、11年途中に西武へ移籍すると、控え捕手としてチームを支え、欠くことのできない存在となった。通算成績は、138試合出場、打率.191、27安打、0本塁打、3打点、2盗塁。
Webオリジナル

Webオリジナル

プロ・アマ問わず本誌未掲載の選手や球団、事象を掘り下げる読み物。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング