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舞台裏の仕事人

東北から世界一のボールパークを Koboスタ宮城・川田喜則球場長の想い

 

スポットが当たることはめったにないが、野球界には欠かせない裏方さんを紹介する新連載。第1回目に登場するのが、楽天Kobo スタジアム宮城の球場長、川田喜則さんだ。スタジアムの仕事に関わるようになったのは楽天グループ入社後だが、今ではこの仕事が天職と思えるほど、充実した日々を送っている。
取材・文=富田庸、写真=高塩 隆


コミュニティ化したアメリカの球場


3月25日、青々とした天然芝の上で楽天の選手たちが躍動した。生まれ変わったKoboスタ宮城で迎えた開幕戦。大きな希望と少しの不安を抱き、川田球場長は球場全体を眺めていた。本場・アメリカから多くのヒントを得て改修されたボールパークの観客席は、クリムゾンレッドで埋め尽くされていた。

 私が楽天グループに入ったのが2006年5月のこと。当時は経理、財務の担当をしておりました。そして08年7月に楽天野球団へ異動します。野球に“どストライク”の人よりも、他ジャンルに精通している人のほうが新しいものを生み出せる。会社はそう考えたようです。

 球場長になったのは12年の1月です。04年11月の球団創設以来、ずっと同じ方がやられていましたので、私が2代目ということになります。15年には一度離れ、事業部長として観客動員に関する仕事を任されました。結果的にはこの経験が大きかったですね。そして天然芝と公園(スマイルグリコパーク)の導入が決まり、現職に戻ったわけです。

 そもそも、『ボールパーク構想』は球団創設時からあり、長期計画で行われてきました。そして今回の総工費30億円の計画が正式決定したのは15年の9月。毎年マイナーチェンジを繰り返していく中で、今回は大規模な改修となりました。

 やはりモデルはアメリカの球場になります。メジャー30球場のうち、約半分は視察しました。アメリカは球場がコミュニティ化しているというか、ものすごい作り込みがされているんです。「こんなものが球場にあるんだ」というように。試合が見えない場所にスポーツ・バーがあり、そこで大人たちが普通にお酒を飲んでいるんです、野球なんかそっちのけで(笑)。皆が集まる場所に野球がある。それが理想ですね。また、ボルティモアのカムデン・ヤーズには、右翼後方に巨大なレンガ造りの倉庫があり、その1階をグッズショップ、レストランにしている。ボールパークの一部になっているんです。

 そして芝生のグラデーションが最も美しいと言われるPNCパーク。スタンドの後ろに川が流れ、そこに巨大な橋がかけられている。バックネット裏から見ると、その先に摩天楼があるんです。球場から見えるような夜景ではない。都市デザインを含めて球場を造っているんです。そこに少しでも近づければいいですね。

 一方、われわれのボールパークの一番の見どころは天然芝だと思っています。お客様はスタンドから見るだけですから、実際に踏んだ感触などは味わえないかと思いますが、芝の色、匂い、きれいにカットされたグラデーションなどは、絶対に人工芝では出せないものだと思います。しかも、土の色ともマッチしていますから。

 あと、球場内に公園があるのは、国内でウチだけではないでしょうか。さまざまなアトラクションがあり、座席も変わり、その中で野球を見ることができるというのが見どころではないかと思います。また5月には大観覧車が完成します。照明灯よりも高いですから、そこからどのように野球を見ることができるのか。もう、楽しみでしかないですね。

特別な思いで見た3.25東北開幕


やるからには、世界一のボールパークを完成させたい。スタジアム運営に関わる球団職員、そしてグラウンドキーパーの共通の思いだろう。いまだ発展途上。日本初を生み出し続け、世界に誇れる“唯一無二”を目指していく。

新スタジアムに広がった観客の笑顔。それを目にした川田球場長の感激もひとしおだった


 球場長としての主な職務内容は、球場改修に関わる立案、そして施工から完成まではわれわれの管轄です。そして、ここまで大きな球場になりましたから、安心、安全に運用するためのメンテナンスは重要になります。電気、水道、ガスのほかすべてです。そして、試合の運営に関しても私の責任になりますから、警備やサービス面も、もちろん関わってきます。

 3月25日の開幕日は、特別な思いがありました。試合にも勝つことができて(ソフトバンクを相手に7対3で勝利)。あの新しいグラウンドでチームに勝ってもらい、お客様が喜ぶ姿を見てうれしく思いました。

 昨年11月23日にファン感謝祭が行われ、翌日から人工芝を撤去して。砂利を敷いて、砂を敷いて、1月上旬にはカーペットのように丸まった芝を敷いて。それから約2カ月間、養生しました。こうなると我が子みたいなもの(笑)。毎日水を撒いて、肥料を与えて……。すべては開幕戦のためでしたから。

 グラウンドを使ってくれる選手、監督、コーチ、それを見に来てくださるお客様のために働いているわけで、その方々の笑顔を見ることが私の喜びです。そのためにはどこにも負けないボールパークを作りたいという思いが強いです。

 東北のランドマークとして世界に誇れるボールパークを目指しています。今回の天然芝化は大きな一歩となりましたが、これがこのスタジアムの完成形だとは思っていません。すでに動き出しているプロジェクトもあります。夢に終わりはない――。そういった思いを持ち続けながら、これからもより良いボールパークを追求していきたいです。


PROFILE
かわだ・よしのり●1973年12月5日生まれ。栃木県出身。日大理工学部を卒業後、建設会社に入社、会計事務所勤務を経て、2006年5月に楽天グループ入社、経理を担当。08年7月に楽天野球団へ異動し、12年に球場長。事業部長を経て16年に球場長復帰。

【番外編】川田さん開幕日のスケジュール


8:00 出勤
9:00 朝礼、各所点検
12:00 ホームチーム練習、グラウンド状態確認
13:00 軽めの昼食
16:00 試合開始、3・5・7回にグラウンドメンテナンスを確認
19:09 試合終了
19:30 各所点検
22:00 帰宅
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野球界には欠かせない裏方さんを紹介する連載。

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