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立浪和義のコラム

ソフトバンク内川聖一選手はなぜ勝負強いのか

 

個性的なテークバックが欠点ではなく利点に


 今回はパの首位を独走し、交流戦でも圧倒的な強さを見せたソフトバンクの四番・内川聖一選手について書いてみます。

四番打者としてチームをけん引する内川。勝負どころでの厳しい内角球をおっつけての右打ちは絶品だ。メンタル的な成長も感じる


 例年以上に勝負強さが光り、まさに打線のキーマンです。これは一流打者の共通点ですが、内川選手のスイングも、基本どおりバットがトップの位置からヘッドが寝ることなく出て、しっかりボールの内側をたたけています。インサイドのさばきという点でも球界屈指の選手です。

 ただ、内川選手のスイングで決して基本どおりとは言えない個性的な点があります。皆さん、お分かりでしょうか? テークバックのときにヘッドが投手側に入るクセです。普通であれば、タイミングが遅れ、ドアスイングにつながりやすいのですが、内川選手の場合、右のしぼりが強いので、そのままの形で、上から内からバットを入れることができます。右打者の内川選手の右ヒジがヘソのあたりまで入ってくるイメージです。

 この技術があるから欠点が逆に利点になっているのです。グリップをかなり前に出せていますのでボールを広角にはじき返せますし、この間の巨人戦(10日)での菅野智之投手からのタイムリーもそうでしたが、インサイドの厳しいボールでもライト方向におっつけて運べます。

 これはもう内川選手の専売特許のようなものですね。 おっつけて右方向に運べるというのは、それだけボールを引き込み、長く見ることができているということです。だから厳しいコースをファウルにでき、フォークボールをはじめ、落ちる系の変化球にバットが止まりやすくなります。バッター有利のカウントに持ち込みやすくなりますし、内川選手はそうやって粘りながら甘いボールを待ち、その失投を逃さず打つということを徹底しています。それがあの勝負強さにつながっているのだと思います。

 あとはタイミングの取り方がシンプルです。球が来たらポンと足を上げ、しっかり引き付けてトップからバットが一直線で出る。前回のWBCではコーチとして内川選手を見ていましたが、データのない外国人投手でも対応できたのは、あのシンプルなスイングだからでしょう。トップ選手ほど技術はシンプルになるのです。

 ずっと安定して3割前後を打ち続けているバッターですし、技術的にもメンタル的にもいまの球界では抜けているなと感じます。若手のお手本のようなバッティングですよね。 あとWBCのときに感じたのが練習に真摯に取り組む姿勢です。天性だけではなく、ああやって努力を積み重ねているからこそ、継続して成績を出せるのだと思いますし、チームのほかの選手たちにもいい影響を与えていると思います。

PROFILE
たつなみ・かずよし●1969年8月19日生まれ。大阪府出身。PL学園高からドラフト1位で88年中日入団。1年目からショートのレギュラーをつかみ新人王、ゴールデングラブに。その後、95年から97年とセカンド、03年にはサードでゴールデン・グラブに輝き、96年にセカンド、04年にサードでベストナインを手にしている。09年限りで引退。通算2586試合2480安打、135盗塁、打率.285。487二塁打は日本球界最多記録でもある。
立浪和義の「超野球論」

立浪和義の「超野球論」

そのときどきで気になった選手や試合、さらに、私が感じたポイントについて書いていきたいと思います。野球をより深く知りたいという方、また、もっともっと野球がうまくなりたいという中学、高校生のみなさんにも参考になる連載になればと思っています。

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