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7試合連続2ケタ奪三振、楽天・則本昂大が見せた覚醒前夜の“失敗”

 

試合開始前、マウンドで集中した表情を見せる則本


 楽天則本昂大が6月1日の巨人戦(Koboパーク宮城)で、7試合連続2ケタ奪三振のプロ野球新記録を樹立した。その夜、ふと思い出したのが、小山伸一郎さんの言葉だった。

 弱小時代から楽天のブルペンを支え、現在は二軍投手コーチを務める小山さんに興味深い話を聞いたのは、現役引退直後の2015年12月、惜別インタビュー中のことだった。理想のエース像として小山さんが挙げたのは、言うまでもないが田中将大(現ヤンキース)。「自分は大した投手はじゃなかったので」と自虐的に笑うが、若手投手陣からは頼れる兄貴分的存在だった小山さん。そんな右腕が後輩たちに説いていたのは「将大はこうだった、こうしていた」という、自らの目で見た経験談だった。

 そんな小山さんの心に引っかかった出来事がある。味方のミスがきっかけで崩れた後の、則本が見せたベンチでの態度だった。グラブをたたききつけ、その怒りを抑えきれない様子だったという。シーズンが終わり、オフのリラックスした食事会の席上で、小山さんはそっと諭すように則本へこう言った。

「おまえの姿、行動、振る舞い、言動をみんなが見ているんだぞ。それを忘れるな。応援され、みんなに称えられる存在でありたいのか。それとも“なんやねんアイツ、勝手にしとけ”と思われるのがいいのか」

 則本は、この言葉にハッとしたと、後のインタビューで打ち明けている。そしてこう思ったそうだ。「チームの中で、もっともっと信頼されるピッチャー、そして信頼される人間になりたい」――。

 記録達成の当日、則本は4回、巨人の村田修一に先制2ランを浴びている。それでも6回、アマダーの2ランで追いつき、岡島豪郎の適時三塁打で勝ち越した。7試合連続2ケタ奪三振を達成した則本が8回にマウンドを降りると、9回には弟分としてかわいがる松井裕樹が登場。2人の走者を背負う苦しいピッチングも、正捕手・嶋基宏の好判断もあり、3対2、何とか1点差勝利につなげた。そこには、「ノリのために」、「則本さんのために」というチームメートの思いがあふれていた。

 当の本人もまた、「記録達成はうれしいですけど、チームが勝つことがすべて」ときっぱり言い切る。この記録をもって、田中将大と比較してどうこう……など無粋な議論だし、本人もまだまだ及ばないと感じているはず。ただ一つ確かなのは、則本昂大が、誰もが認めるエースへの階段をまた一つ上がったということだ。

文=富田 庸 写真=榎本郁也
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