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受け継がれる米スポーツジャーナリズム重鎮の遺産

 

スポーツ関係の表彰式のプレゼンターで登場したときのデフォード氏(右)


 スポーツイラストレイテッド(SI)誌の看板記者として、アメリカの雑誌スポーツジャーナリズムの黄金時代を築き上げたフランク・デフォード氏が亡くなった。78歳だった。

 SI誌は1954年の創刊当初、ヨット、ポロなど、上流階級がたしなむスポーツにスポットを当てたが、部数はまったく伸びなかった。それが50年代末のプロスポーツの大衆的人気拡大、TV視聴者の増加に合わせ、観戦するスポーツに焦点を移し、成功への扉が開く。美しい、構図にも工夫をこらした写真を並べ、新聞より時間がある分、練った記事を掲載した。

 さらに雑誌の最後に「ボーナスピース」と銘打った長文の、文学的エッセンスの詰まった記事を載せ、高く評価される。その中で、特に人気があり、名をはせた記者がデフォードだった。60年代、プリンストン大のバスケット選手ビル・ブラッドリー、NHL・ボストン・ブルーインズの新人ボビー・オアの記事で注目されるようになり、その後もテニスのアーサー・アッシュ、バスケットボールコーチのボビー・ナイト、ヤンキースの監督ビリー・マーチンなどなど、スポーツ界の著名人を独自の視点で描いた。

 筆者が最近、よく取材現場で一緒になる、ロサンゼルス・タイムズ紙のドジャース担当アンディ・マックロー記者は「スポーツライティングの世界で、最高の書き手。彼によって、スポーツジャーナリズムの質が格段に高められた」と敬意を払う。SI誌は発行部数300万を超え、デフォードは年間最優秀スポーツライターに6度も選ばれている。

 日本でも80年代、文藝春秋社がSI誌の影響を受け、ナンバーを創刊、格調高い文章でスポーツを描く書き手が育っていくが、本家本元はデフォードだったと思う。

 筆者が渡米した1990年、デフォードはSI誌を離れ、「ザ・ナショナル」というスポーツ専門の新しいタブロイド新聞の編集主幹に就任した。全米の優秀な記者や編集者を集め、華々しく始まり、筆者もその内容の濃さに舌を巻いたが、ビジネスとしてはうまくいかず18カ月であえなく廃刊となっている。その後、大きなスポーツイベントでたまに見かけることがあったが、個人的に話す機会はなかった。長身で、映画スターのような風貌で気軽に話しかけにくい感じもあったし、活躍の場をTVやラジオに移していたということもあるのだろう。

 それにしてもこうして彼の訃報を耳にすると、アメリカのスポーツジャーナリズムの世界も変わったのかなと思う。分厚かったSI誌も薄くなり、スポーツ情報は雑誌よりもインターネットで流通するようになった。長文より、コンパクトにまとめられた記事を好む傾向もある。

 しかしながらマックロー記者は「ESPNのライト・トンプソンのように骨太の記事を書く記者は今も人気。人々は内容の濃い良いストーリを読みたいと思っている」という。デフォードの遺産は確実に引き継がれていくのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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