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高校野球リポート

早実・清宮幸太郎の「ノーサイド精神」

 

春の東京大会決勝後、早実の主将・清宮は日大三の主将・櫻井に歩み寄り、健闘を称え合った


 6月26日発売の『第99回全国高校野球選手権東・西東京大会展望号』では、東大会(134チーム)と西大会(128チーム)の全出場校の戦力分析、注目選手を掲載している。

 ラグビーの試合終了の合図は「ノーサイド」と言われる。ゲーム中はお互い激しくぶつかり合うが、熱戦が終われば、敵味方なく、健闘を称える。ジャージを交換するケースもあり、ファイティングスピリットが凝縮された微笑ましい光景だ。

 清宮克幸氏(ラグビートップリーグ・ヤマハ監督)を父に持つ、早実・清宮幸太郎も元ラガーマン。2006年夏、同校先輩のエース・斎藤佑樹(現日本ハム)が初の全国制覇を遂げたのを甲子園アルプス席で観戦したのがきっかけで、清宮は白球に情熱を燃やすことを決意した。

 とはいえ、怪物スラッガーの一連の動きを見ていると、随所で「ラグビー気質」が色濃く残っている。

 試合中はファウルボールを猛然と追いかけ、一塁フェンスに激突しての好捕。タックル以上の衝撃も、痛い素振りは一切見せない強じんな体だ。

 2年秋の新チーム結成以降、主将に就任した清宮は、チームスローガンとして『GO! GO! GO!』を定めた。投手の球速5キロ増。打者の飛距離5メートルアップ。各自の体重5キロ増という、体力強化を目的としていたが、もう一つの意味があった。

 全員で元気を出す!!

 シートノック前はマウンド付近に集まり、主将の『GO! GO! GO!』の音頭で各ポジションに散っていく。これも、ラグビーのようなムードだ。試合中も『GO! GO! GO!』を合言葉に結束。早実はどんな展開でもあきらめない真摯な姿勢と、闘争心がある。今や、お守りのようなかけ声となっているという。

 今春の日大三との決勝は、早実が延長12回サヨナラ勝ち(18対17)。昨秋に続く連覇を飾った整列後に、まさかの展開が待っていた。清宮が日大三の主将・櫻井周斗(投手兼外野手)に歩み寄り、「また夏、頑張ろう!」と声をかけたのだ。

 日大三では原則、このシーンでの握手は禁じられている。相手へのリスペクトは「一礼」ですべてが集約されており、各校によってその動きはさまざまだ。つまり、櫻井から清宮へ歩み寄ることはない。しかも、秋に続くサヨナラ負けをしたわけで、軽はずみな行動をすべきではない。当然である。しかし、相手が来たからには、対応しないわけにもいかない。それが、写真の櫻井(右端)の表情である。ユニフォームを交換したいくらいの清宮の純粋な思いが、相手にもしっかりと伝わったという。

 高野野球では、全国の共有認識として「3つのF」の精神が、叫ばれている。その意味は「ファアプレー、フレンドシップ、ファイト」。清宮の魅力は本塁打だけではない。トップアスリートとして、人としての力も備わっているのだ。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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