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プロ野球回顧録

山本彩より盛り上がった? 広澤克実の六甲おろし熱唱

 

まったく照れることなく熱唱。ベンチの阪神選手たちも拍手を送ったが、野村監督の姿はなかった……


 7月27日、本拠地・甲子園で、阪神がDeNAを10対3で撃破。勝利の女神となったのが、アイドルグループ・NMB48の山本彩さんだ。大の阪神ファンで知られる山本さんは、この日、グラウンドで『六甲おろし』を熱唱。爽やかな歌声で大観衆を魅了した。

「ああ、うまいなあ〜、かわいいなあ〜」と思いながら聞いていた『週べ』のベテラン記者だが、実はその頭の中で、山本さんと“ハモる”1人のおっさんの姿があった……。

 あれは2001年8月29日、阪神監督は野村克也氏の時代だ。甲子園のお立ち台で「六甲おろし」を熱唱する巨漢は、巨人から移籍2年目の広澤克実。4万8000人、満員の大観衆も声を合わせて歌っている。

 これには伏線があった。6月21日の巨人戦(甲子園)で広澤がサヨナラ打。そのときお立ち台に上がった広澤は、特に誰かに水を向けられたわけではないのだが、唐突に「次にサヨナラ打したら六甲おろしを歌います」と宣言した。この年、阪神は春先から下位に低迷。ベテランの広澤は、自分のパフォーマンスで少しでも沈滞ムードをはねのけたいという思いがあったのだろう。

 しかし、その後も連勝、連敗の繰り返しながら、なかなか浮上のきっかけをつかめず、スタメンでもない広澤には、サヨナラはおろか、ヒーローになるチャンスも回ってこなかった。

 しかし虎の神(?)は見放していなかった。この日の巨人戦(甲子園)で6回裏、高橋尚成から10号の決勝ソロを放ち、チームは1対0の勝利。サヨナラではないが、“空気”は十分に温まっていた。

 お立ち台に上がった広澤は、自らマイクを持ち、「ドキドキです。今日ここで六甲おろしを歌います。さあ、みなさん一緒に歌いましょう!」。

 かくしてプロ野球史上初の選手、ファンの大合唱が甲子園の夜空に響き渡った。正直、歌はうまくはなかったが、広澤の弁は「反響で音がずれて聞こえたから」。ヤクルト、巨人、阪神と渡り歩き、通算1736安打の大打者だ。その言葉を信じよう。

 翌日の新聞には「甲子園ライブ」の表現もあったが、その盛り上がりは山本さんに勝るとも劣らず、いや、ベテラン記者の記憶の中だが、明らかに広澤が勝っていた。

写真=前島 進
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