8月7日現在、2位・
阪神に9ゲーム差で首位をひた走る
広島。連覇達成となれば1980年以来だ。その初連覇を遂げた80年シーズンを振り返ってみよう。
投打の充実には目を見張るばかり
新幹線の中で連覇決定の報を聞き、松田オーナー、古葉監督を囲んでバンザイ
1980年のシーズンを迎えたカープの選手たちには自信がみなぎっていた。前年は4年ぶりのリーグ制覇、そして球団創設30年目にして初の日本一。野手に目を向ければ
山本浩二と
衣笠祥雄の主砲コンビに、2年前の首位打者・
水谷実雄、若きスピードスターの
高橋慶彦といった中心選手は健在。投手陣には前年のMVP、
江夏豊が守護神としてどっしり控え、
北別府学、
池谷公二郎、
福士敬章に
山根和夫ら、先発投手の充実ぶりも目を見張るばかりだった。
巨人以外の球団では初のセ・リーグ連覇を目指して臨んだシーズンは、いきなりの劇的勝利で幕を開けた。4月5日の阪神戦(広島)、6対6の同点で9回裏の打席に入った
デュプリーが、右中間にサヨナラ本塁打。5年ぶりに開幕戦を白星で飾る幸先のいいスタートを切った。
続く8日の大洋戦(広島)では、主砲の山本浩が記念すべき通算300本塁打を達成し、チームも開幕2連勝。だが、序盤の打線をけん引したのは僚友の衣笠のほうだった。11日の巨人戦(後楽園)では
堀内恒夫から決勝の逆転2ランを放つなど、4、5月で山本浩を上回る12本塁打とパワーを発揮。チームも4月末の時点で6つの貯金を作ると、5月もきっちりと勝ち越し、着実に首位の座を固めていった。
6月に入ると、今度は山本浩のバットが火を噴く。8日の阪神戦(甲子園)で
江本孟紀に試合を決める一発をお見舞いすると、18日の
中日戦(ナゴヤ)ではチームを勝利に導く2打点。この月は打率.342、9本塁打と打ちまくり、通算3度目の月間MVPに輝いた。
7月の声を聞くころには、カープは2位を大きく引き離し、独走態勢に入っていた。15日には過去最速ペースで40勝に到達し、球団史上初の前半戦首位ターン。貯金の数は21に膨れ上がり、2位・
ヤクルトとのゲーム差は7.5まで広がっていた。
本拠地で誇った圧倒的な強さ
広島駅前で大勢のファンが連覇を遂げたチームを出迎えた
チームの好調ぶりを反映するかのように、オールスターにはファン投票選出の山本浩を筆頭に、投手陣から山根、福士、北別府、江夏、そして中継ぎの
大野豊、野手では高橋と衣笠が監督推薦で出場。総勢8人もの選出は球団新記録となった。
ただ選ばれただけではない。西宮で行われた第1戦では全セの一番に抜擢された高橋が3安打の固め打ちを見せると、川崎での第2戦は先発の山根が3回をパーフェクトに抑え、そろって優秀選手賞を獲得。舞台を後楽園に移した第3戦では、1点リードの9回無死満塁で登板した江夏が圧巻の三者三振でピンチを断ち切り、MVPで大トリを飾った。
夢の球宴でも存分に存在感をアピールした広島の勢いは、後半戦に入っても衰えることを知らなかった。ペナントレースが再開した7月25日から31日まで4連勝。31日のヤクルト戦(広島)では山根が完投で10勝目を挙げ、福士、北別府に次いで3人目の2ケタ勝利に到達した。これで7月は5勝負けなしの山根は、6月の山本浩に続く月間MVPに輝いた。
この年のカープは、本拠地・広島市民球場で圧倒的な強さを誇った。5月29日のヤクルト戦を最後にホームゲームでは負け知らず。8月19日の阪神戦に勝ち、ホーム20連勝(うち1試合は岡山開催)の日本新記録を打ち立てた。
8月24日のヤクルト戦(神宮)では山本浩の逆転2ランで試合をひっくり返し、最後は江夏が締めてマジック35が点灯。その後、2度にわたってマジックが消えるハプニングはあったものの、9月23日のヤクルト戦(広島)に逆転勝ちしてマジック23が再々点灯すると、そこからは一気に突っ走った。
9月28日から2分けを挟んで4連勝で、マジックは11。2位・ヤクルトの失速もあってカウントダウンは順調に進み、10月17日にデーゲームで行われた阪神戦(甲子園)を
萩原康弘の逆転満塁弾でモノにすると、マジックはついに「1」になった。
その夜、2位・ヤクルトが中日に敗れ、カープのリーグ2連覇が決定。ナインに吉報が届けられたのは、地元・広島に戻る山陽新幹線の車中でのことだった。さすがに胴上げはできなかったものの、選手たちはグリーン車で松田耕平オーナーと
古葉竹識監督を囲み、勢ぞろいでバンザイ。広島駅に着くと、鈴なりのファンがV3戦士を出迎え、その強烈な歓迎に選手たちの顔には笑みがあふれた。
写真=BBM