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パンチ佐藤の漢の背中!

【パンチ佐藤が直撃】パン屋を営む元近鉄・川口憲史 (後編)

 

『ベースボールマガジン』で連載しているプロ野球選手の第2の人生応援プロジェクト「パンチ佐藤の漢の背中」。現役を引退してから別の仕事で頑張っている元プロ野球選手の下をパンチさんが訪ね、お話をうかがってまいります! 今回は福岡でパン屋を営む、元近鉄ほかの川口憲史さんです。

毎朝3時から生地作り。現役時代から8キロ増


「パン&ベーグル hands hands」は福岡市西区飯氏773-1。10時開店で木曜定休です


 パン屋がオープンして5年。駅前の賑やかな商店街の中という立地でもなければ、交通量の多い幹線道路沿いというわけでもない。一応、国道202号線(今宿バイパス)から道路1本入ったところに位置しているが、とにかく目立たない。知らない人が偶然通りかかる可能性はかなり低いだろう。それくらい、何もないところにポツンとある一軒家が川口さんのお店「hands hands」だ。

 元プロ野球選手が経営する飲食店にありがちな、「元プロ野球選手のお店」であることを前面に出して宣伝しているわけでもない。それでも「生活できるくらいには」(川口氏)順調だという。

◇ ◇ ◇

パンチ パン屋さんって、朝早いんでしょ。

川口 午前3時くらいから作り始めています。でも自宅なんで、まだいいですよ。

パンチ 3時から、まず何をするんですか。

川口 僕は生地担当。

パンチ どこが難しい?

川口 水との配合ですね。その日の湿度も考えて、調整して。

パンチ ちゃんと配合しないと、うまく焼けないんだってね。

川口 僕はまだ見習いなので、生地を作って、焼き上がったものをカットするだけなんですよ。

パンチ 野球選手って、バット振ったり、毎日同じことをしているわけじゃない。だから生地作りを毎日やるのも苦にならないでしょ。

川口 ならないですね。楽しいです。

パンチ 発見もあるでしょ。

川口 水を入れるタイミングで生地も変わるんです。それも面白くて。いい生地ができたときはうれしいですね。

パンチ 奥さんからは注意されたり、褒められたりはしてないの。

川口 毎日注意されています。ベーグルは茹でてから焼くのですが、茹で方によって生地の張りが違うんです。下手だと、ちょっとツヤっとしないとか。

パンチ ほう! 褒められるときは?

川口 たまにうまくいくときもあるのですが、そういうときはどうやったのか覚えていないんですよね(笑)。

パンチ それで、3時から何時まで作っているの?

川口 10時くらいまでに作り上げて、それから販売するんです。

パンチ 朝早いのはつらいねえ。

川口 最初はつらかったです。

パンチ 冬は寒くて暗いでしょ。夜は何時に寝るの。

川口 22時までには寝ようかな、と。

パンチ 昼間、仮眠を取ったりするの。

川口 作ってしまえばお客さんを待つだけなので、ウトウトすることもあります。

パンチ ここはオープンして何年?

川口 6年目ですね。

パンチ どう、売り上げは。

川口 少しずつ増えてきています。最初の頃は場所が場所なので、お客さんが来なかったんですよ。半年くらいして、口コミで増えてきました。

パンチ 最初の半年はどういう気持だった?

川口 大丈夫かな? という不安ばかりでした。

パンチ じゃあ、残ったパンを毎日食べていたの。

川口 だからこんなに太ったんです。

パンチ 健康は大丈夫ですか。

川口 たぶん危ないですよ(笑)。ダイエット番組の企画とか、何かないですか。

パンチ 何キロ太った?

川口 現役時代と比べると8キロくらいですかね。

パンチ 今年、1キロだけ痩せましょう。それを来年からも続ける。8年かけて、元に戻しましょう!

川口 分かりました!

パンチ 健康が第一だから。健康な人が作るパンじゃないと、おいしくないでしょ。

川口 でも、ガリガリの人が作ったパンもどうかなと(笑)。

パンチ キャラクター作りで太ったのね(笑)。

喜んでいるお客さんの顔が見えるのがうれしい


お店にはおいしそうなパンとベーグルが並ぶ


パンチ いま現役のプロ野球選手である後輩たちには、どんな言葉を送ってあげたいですか。

川口 現役をやっているときはそっちを一生懸命にやってほしいのですが、やめてからのほうが、人生は長いですからね。何をするのかというのも考えておいたほうがいいですね。

パンチ 本当にそう。現役引退してからが、本当の人生だから。

川口 自分はパン屋を選びましたけど、他のみんなは何をやっているんだろうと思うときはありますね。

パンチ いい仕事を選んだよね。というのは、群馬で農業をやっている河野博文さん(元日本ハムほか)を取材したときも感じたんだけど、ちゃんと気持ちを込めておいしいものを作って、それをお客さんが喜んで買ってくれて、お金がもらえる。正直な形が見えるじゃない。

川口 そうですね。

パンチ パンもそうでしょ。朝3時に起きて、生地をこねて、焼き上がったものを店に並べる。そうするとお客さんが買いに来るわけでしょ。

川口 そうやって、形になって見えますからね。喜んでいるお客さんの顔を見るのはうれしいですよ。でも、並べているときは不安です。今日はどうだろうな、と。

パンチ 好きな言葉は?

川口「耐えて咲く」。恩師の福田(精一)監督(元柳川高監督)の言葉です。プロに行くときに、色紙に書いてもらったんです。

パンチ シンプルだけど、いい言葉だね。耐えるだけなら暗くなっちゃうけど、咲くのがいい。監督に、パンを食べてもらったことある?

川口 あります。偶然なんですけど、近所なんですよ。最初は知らなかったんですよ。

パンチ へえ、縁だねえ。西南学院大野球部のコーチもやっているそうだけど、どういう縁で?

川口 その監督の(福岡大の)教え子が現在の西南学院大の監督(東和樹監督)で、そのつながりで紹介されたんです。

パンチ どういう指導をしているの。

川口 楽しくやってほしいですね。押し付けたくないんです。その選手の個性を出してほしい。

パンチ 今の大学生はどうですか。

川口 あまり上からガツンと言うと、シュンとなりますね。

パンチ でも、褒めると調子に乗るでしょ。

川口 そのバランスが難しいですね。

パンチ 今後の目標はあるの。お店を手広く展開しようとか。

川口 大きくしようとは思っていないですね。このまま細々と長くやりたいです。10年くらいすれば、今お客さんの子どもが大人になるので、あの味が懐かしい、とまた帰ってきてくれる店にしたいんですよ。

パンチ いいなあ。このまま夫婦仲良く、おじいちゃん、おばあちゃんになってもパンを作っていてほしいねえ。

川口 そうですね。それが目標なんです。

パンチ 子どもだったお客さんが大人になって戻ってくる。これが僕の懐かしい味なんだよ、ってね。

川口 野球選手だったときも、お子さんだったファンが、「今度結婚しました」と言いに来てくれたり、16年もやっていればそういうこともありました。今の仕事でも、そういうふうになればいいなと思いますね。

パンチの取材後記


 野球選手は、毎日同じことをやるのが苦になりません。パン屋さんも、まさしく日々の努力の積み重ね。その中で喜びを感じたり、新たな発見があったり、というのは素敵だなあ。

 実はスケジュールの関係があってお休みの日にお店を訪れたので、パンの現物はまったくなかったのです。食べてみたかったなあ……。対談の途中で、お休みだと知らないお客さんが来店したのですが、そのおじさんが「ここのパンはおいしいから、また買いに来るよ」とニコニコしている顔を見て、愛されているんだなあと確信しました。

 女性は結婚する相手によって人生が変わるといいますが、それは男も同じ。いい人を選んだな、川口君の選球眼は抜群だったなと確信しました。これからも二人三脚で頑張ってほしい。白髪になってジャムおじさんみたいな風貌になっても、生地をこねていてくれよ!

●川口憲史(かわぐち・けんし)
1976年6月28日生まれ。福岡県出身。柳川高からドラフト4位で95年近鉄に入団。2001年は主に「七番・指名打者」として打率.316、21本塁打、72打点の自己最高成績を残し、リーグ優勝に貢献した。球団合併を経て05年、楽天に移籍。新球団の開幕戦で「三番・ファースト」でスタメン出場し、球団初打点をマークする。10年限りで引退(06年以降の登録名は『憲史』)。通算成績は976試合、613安打(打率.263)、69本塁打、314打点。現在は福岡市内で「パン&ベーグル hands hands」を経営する傍ら、西南学院大のコーチも務める。

●パンチ佐藤(ぱんち・さとう)
本名・佐藤和弘。1964年12月3日生まれ。神奈川県出身。武相高、亜大、熊谷組を経てドラフト1位で90年オリックスに入団。94年に登録名をニックネームとして定着していた「パンチ」に変更し、その年限りで現役引退。現在はタレントとして幅広い分野で活躍中。山形県南陽市のラーメン大使。

構成=落合修一 写真=BBM
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