天理との準決勝で中村は6回に大会新となる6本目の本塁打を放った
甲子園は中村のためにあるのか――。
実況だったら思わず、こう叫びたくなるほどの神業である。公式記録の備考欄は「大会新記録」でびっしり埋まっていた。
・1大会個人最多本塁打(6本)
第67回大会の清原(PL学園)の5本を更新
・1大会個人最多打点(17打点)
第90回大会の萩原(大阪桐蔭)の15を更新
・1大会個人最多塁打(38塁打)
第91回大会の河合(中京大中京)の28を更新
広陵は天理との準決勝で12対9と逃げ切り、準優勝だった2007年以来の決勝進出を決めた。三番・捕手の
中村奨成(3年)は4安打7打点の活躍。初回にバックスクリーンへ大会タイ5本目となる2ランを放つと、1点を追う5回には先頭打者で左中間スタンドへ豪快にたたき込み、歴史を塗り替えた。
「記録を抜いた感じでは(実感は)ない。勝った喜びのほうがうれしい。まだ優勝したわけではない。皆さんのおかげでここまで来られた。明日勝って、最高の恩返しをしたい」
しかし、質問はどうしても「数字」に集中する。本塁打数は頭にあったが、塁打と打点については「初耳です」と目を丸くさせ、本塁打との比較を問われると「打点です」と、一発よりも好機での一打に重きを置いている。
この日の2発で高校通算44本塁打。中村は自ら「ホームランバッターではない」と言う。「打てているのはたまたま。高校球児のあこがれの舞台でやれているのはありがたいこと。その中で結果が出せているのは甲子園の力なのかなと思います」
泣いても笑っても残り1試合。広陵は春3度の優勝があるが、夏は3度の準優勝が最高成績。「チームの勝利のための一打」を強調する中村は言った。
「まだまだ、満足していないので。誰にも追いつけないような記録を作りたい」
この日の自己採点は「80点」と言った。「打ち損じた」という1打席凡退(遊飛)を反省しており、「1試合打率10割。良い結果が出せたら100点満点になる」と貪欲に語った。
準決勝を終えて23打数16安打、打率.696。その言葉の通りに、決勝で3打数3安打以上の爆発を見せれば、第70回大会の古閑憲生(津久見)の持つ個人1大会最高打率.727(11打数8安打)を塗り替えることになる。
甲子園は中村のためにある――。明日の決勝、中村ならば再び、神業を見せてくれそうだ。
写真=高原由佳