優勝持越しが決まり、ファンへのあいさつのためにグラウンドへ向かう選手たち
不思議な光景だった。
9月14日のマツダ
広島。
DeNAを5対4で下した広島の選手たちはすでにベンチを引き揚げグラウンドはからっぽに。しかしファンは帰路につくことはなく、スタンドには一喜一憂の声が響いていた。
ファンの視線の先はグラウンドではなく、バックスクリーンへ。そこには甲子園で行われている
阪神対
巨人が映し出されており、2位・阪神が敗れれば広島の26年ぶりの地元優勝が決まる。その瞬間を見届けようと、試合の行方をかたずをのんで見守っていたのだ。
広島ファンが、しかも本拠地で巨人の勝利を願うなどそうそうないだろう。結局、試合は引き分けに終わり、優勝は持ち越しとなるのだが、同点の延長11回に巨人・
村田修一がレフトへの大きなフライを打ち上げた際には、勝ち越し本塁打を期待したのであろう「あ、あ、あ〜」という悲鳴のような声が漏れていた。
実はこのとき、スタンド以外の場所からもまったく同じため息が聞こえてきた。それは選手たちが待機していたロッカールーム。優勝を決めたかったのは選手もファンも同じ。まるで息を合わせたかのようなシンクロに、同日時点で勝率.703を誇る本拠地での驚異的な強さの一端を見たような気がした。
この日の広島の試合でも、4対4の8回に
今村猛が二死満塁のピンチとなった場面。同時刻に甲子園で行われていた試合で、巨人が土壇場の9回に同点に追いつくと、マツダ広島は騒然。今村がいったんプレートを外すほどの異様な雰囲気はすぐに広島への大声援に変わり、目に見えない力に押されるように今村はその回を無失点に。さらにその裏には
バティスタの勝ち越し犠飛が飛び出し、チームを勝利に導いた。
選手とファンの一体感。そしてホームゲームでの圧倒的な強さ。優勝はできずとも、この1戦には広島の魅力が詰まっていた。
文=吉見淳司 写真=田中慎一郎