2年連続で歓喜の瞬間を迎えた広島。ナインが存分に力を発揮した結果だが、特にシーズンを通して看板の強力打線が威力をまざまざと見せつけた。ここではプロ野球アナリストの千葉功氏に、記録の側面から2017年型カープ打線のすごさを徹底解剖してもらった。 ※記録は9月17日現在
代打陣の奮闘も連覇への大きな力
4本の代打本塁打を放ったバティスタなど、試合途中から打席に立った選手が結果を残した
昨シーズン25年ぶりにリーグ優勝を果たした広島はチーム打率、防御率ともにリーグ1位であった。しかし10勝をマークし、防御率3.09であった
黒田博樹が抜けた今シーズンはチームとしての防御率は1位の
巨人に0.1差の3位だ。
その一方でチーム打率.275は2位の
DeNAに2分3厘もの大差をつけ、ぶっちぎりの第1位。さらに打率だけではなく、147本塁打も117本で2位のDeNAを大きく引き離している。ほかにも108盗塁は2位の
中日の73に35個もの差をつけてこちらも第1位。攻撃面においては文句が付けようがない2017年の広島である。
ほかにも特筆すべき打撃面のデータがある。まずは代打陣だ。チームの代打打率.259はリーグ1位であり、長打率と合わせて比較するといかにカープ打線が優れているかがはっきりする。
[チーム代打成績]
広島 打率.259 9本塁打 52打点 長打率.433
中日 打率.247 2本塁打 29打点 長打率.305
巨人 打率.229 3本塁打 26打点 長打率.325
阪神 打率.216 5本塁打 26打点 長打率.310
ヤクルト 打率.192 6本塁打 27打点 長打率.306
DeNA 打率.162 2本塁打 9打点 長打率.243
加えて広島の代打陣は9本もの本塁打を打っている。バティスタが4本、
松山竜平、
西川龍馬が各2本、
新井貴浩が1本だが、これはリーグのみならず12球団を見渡してもズバ抜けて多い数字だ。参考までにセ・リーグのヤクルトは6本、阪神は5本、巨人は3本、中日、DeNAは2本である。したがって広島の代打の長打率は.433となり、長打率.325で2位の巨人を大きく引き離している。
しかも広島の安打の内訳は本塁打のほかに二塁打も多く、ここまでの合計は14本。つまり同じ安打でも広島の安打には効果的な長打が多いことで、必然的に打点も多くなっている。現に広島の代打による打点は52にもなり、これは29打点で2位の中日よりかなり多い数字である。目に見える打率の差だけではなく、打撃内容や質という点でもほかのチームを圧倒している。
相手に脅威を与える得点圏打率の高さ
リーグ2位の得点圏打率.339をマークしている安部
広島打線の脅威を証明する上で欠かせないのが得点圏打率だ。チーム打率は.275だが、走者が得点圏にいると打率はさらに高くなるのだから相手バッテリーにとってはこれ以上厄介なものはない。その一方で無走者のときの広島のチーム打率は.258である。
[走者無しのチーム打撃成績]
広島 打率.258 75本塁打
ヤクルト 打率.245 46本塁打
中日 打率.243 62本塁打
阪神 打率.241 53本塁打
巨人 打率.239 54本塁打
DeNA 打率.238 64本塁打
数字的には1位とはいえ。下位チームと大差はない。しかし、走者が出ると広島打線は一変する(カッコ内は走者得点圏の場合)。
[走者有りのチーム打撃成績]
広島 打率.296(.298)
ヤクルト 打率.224(.224)
中日 打率.257(.237)
阪神 打率.258(.246)
巨人 打率.266(.273)
DeNA 打率.271(.269)
ヤクルトは走者なしでは.245だが、走者が出ると.224と大きくダウン。走者が出ると.258から.296へと打者が活気づく広島とは対照的である。
広島の主要打者たちの得点圏打率を見ると、その勝負強さに驚かされる。レギュラーあるいは準レギュラー級のほとんどの選手が打率3割台である。現在5人が規定打席入りしているが、そのうち3人が得点圏打率でも3割台をキープ。ほかにも規定打席にこそ達していない選手の中でも
エルドレッドは.326、新井は.324、西川も.308であり、松山は.367とはレギュラーも顔負けのハイアベレージを残している。
こうした選手たちがいるのだから、チームを指揮する
緒方孝市監督も心強いことだろう。広島ナインに共通するこの無類の勝負強さこそが、代打に起用されたときの好成績にも反映していると言ってもいい。
チームのシーズン最高打率の更新なるか
不動の一番打者としてチームをけん引した田中
広島には絶対的なレギュラーがそろっているのだから緒方監督も出場メンバーの構成にも頭を悩ますこともない。それは今シーズンも同様である。
一番・
田中広輔、二番・
菊池涼介、三番・
丸佳浩は不動である。二番の菊池はコンディション不良で5月初旬と6月初めに5試合ほど欠場したが、その後は出場を続けている。ここで開幕以来、打線の組み替えに苦慮していた巨人と比較してみよう。
巨人は一番だけでも8人、二番にも9人の選手を起用している。一番の打率は.250、二番は.267だが、これも一番に
長野久義と
陽岱鋼、二番に
マギーが定着して成績を上げているからで、一時は一、二番の打率は2割台前半にまで低迷していた。開幕以来ほとんど変わらずに高い成績を残している広島の“タナキク”コンビとは大違いである。
広島はシーズン開幕直後は四番に新井を主とし、たまに
鈴木誠也を起用していたが、4月下旬からは鈴木が不動の四番に定着した。当初はまだ荷が重いのではないかとの声もあったが、鈴木はケガで離脱するまで四番として98試合で打率.300、24ホーマーと抜群の存在感を放ち、その重責を見事に果たした。その後、四番に座った松山も16合で打率.448、4ホーマーと大爆発している。
八番は捕手の指定席だが、この打順で
會澤翼が74試合で.255、3ホーマー、22打点。巨人の
小林誠司が打率.208と安打を1本打つだけで話題になるが、広島は非力な捕手ではない。
ここまでさまざまな成績を見てきたが、総括すると広島にはクレバーで能力の高い選手がスタメンにもベンチにも数多くそろっていることがデータからも分かる。だからケガ人が1人、2人出ても大崩れしないし、連覇を果たしたのも必然の結果と言える。
そんな広島のチームとしてのシーズン最高打率は1978年の.284、本塁打も同年の205 本だ。今シーズンの広島は135試合を終えて打率.275、146ホーマー。その記録にどこまで迫れるかも見どころの1つだ。
文=千葉功(プロ野球アナリスト) 写真=BBM