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石田雄太の閃球眼

【石田雄太の閃球眼】高校野球タイブレーク導入と本当に大切なこと

 

今夏の甲子園では2試合の延長12回が最長。写真は3回戦の明豊高対神村学園高で、押し出し四球の末に明豊高が勝利した


 先日、TBSラジオの荒川強啓さんの番組に出演したとき、興味深い質問をぶつけられた。

イチロー選手が、申告すれば投げずに済む敬遠の新ルールを『おもしろくない、(敬遠の)4球の間の空気感があるでしょ』とコメントしていましたが、タイブレークも同じじゃないですか」

 なるほど、言い得て妙だ。

 タイブレークには野球の空気感を台無しにする無粋さが伴う。このチャンスが生まれたのは、会心のヒットなのかボテボテのあたりだったのか、エラーなのかフォアボールなのかによって、空気感はまったく異なってくる。そうした野球の物語性を無視して、ビデオのように早送りをしてしまうのがタイブレークではないか、というわけだ。確かにそんな無粋なことをするくらいなら、サスペンデッドゲームにして、翌朝、決着をつけたほうが試合は早く終わるのに、などと思ったりもする。

 いずれにしても、選手、とりわけピッチャーの健康管理を考えたとき、延々と試合が続くリスクに対して、何もしないわけにはいかない機運が高まっていたことも事実だ。タイブレーク導入に関してアンケートを行った結果、38の連盟が賛成の返答をしたとも報道されている。そんな経緯から、タイブレークが来年のセンバツ高校野球で導入されることになったのである。

 センバツでは13回からタイブレークを行い、15回までに決着がつかなければ引き分け再試合となる。13回からとしたのは数字的根拠があるからだ。2000年以降、甲子園で行われた131試合の延長戦を分析した結果、全体の84パーセントにあたる110試合が12回までに決着していた。

 またタイブレークを導入している春、秋の地方大会では、平均1.27イニングで試合が終了しているというデータもある。つまり13回からタイブレークを採用すれば、引き分け再試合を限りなくゼロに近づけることができるというわけだ。すでに準決勝までの導入は決定しているが、決勝でもタイブレークを行うのかという点と、どういう条件から13回を始めるのかの2点については、11月に発表される見通しなのだという。

 ただし、空気感という表現はともかく、野球の流れを無視して無理やり決着をつけてしまおうという人為的な匂いのするタイブレークには反対の声も根強い。そもそもタイブレークが本当にピッチャーをケガから守ることになるのかという疑問の声も聞く。ピッチャーを守るというのなら、思い切って球数制限や連投禁止などのルールを作るべきだ、というのが次のステップだというのだ。実際、アメリカの高校では球数制限が導入されており、そこまで思い切らなければ成長期の高校生を守ることはできないという意見も多い。

 その一方、1敗が重い日本のトーナメント方式では球数制限は難しいという見方にも頷ける。それが日本の勝利至上主義の弊害だということは百も承知だが、リーグ戦主体のアメリカでは球数制限は可能でも、日本では多くの選手を集めやすい私立や強豪校など、レベルの高い複数のピッチャーを用意することが可能な高校に有利に働いてしまうことは明白だからだ。しかも、本当に球数制限が取り入れられたら、序盤からファウルや待球で球数を投げさせて、相手ピッチャーを早々にマウンドから引きずりおろしてやる、といった戦術を公言する監督もいる。

 しかし、である。

 誰もが「選手の健康を守る」ことに対しては異論がないのなら、なぜ球数をルールで制限しなければならないのだろうという違和感がぬぐえない。それは、ルールを作らなければ、選手の健康よりも結果として勝利を優先させてしまう監督がいるからだろう。高校野球の世界が勝利至上主義から脱却できないから、球数を自主的に制限する監督が増えていかない。高校野球で自主的な球数制限が当たり前になれば、ルールでしばる必要はなくなる。むしろ、そうしない監督に時代遅れ、常識外れのレッテルが貼られ、やがてはとうたされるようでなければおかしいだろう。

 選手の健康に関して目指すべきはそういう流れであって、タイブレーク導入の動機は一に日程消化で別に構わないと思う。それが選手の健康にもいい影響を及ぼすのであって、タイブレークの先に球数制限があるわけではないのだ。そこは一線を画して考えないと、本当に大切なことを見失ってしまうような気がしてならない。

文=石田雄太 写真=BBM
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