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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

ドラフトのクジ引きで描かれるドラマ

 

谷村スカウトから選択確定のクジを渡されて、思わず顔がほころんだ川口。「川口君おめでとう」という仰木監督のメッセージ入りだ


 初めてドラフト会議を取材したのは、もう20年も前になる。1997年11月21日。会場である新高輪プリンスホテルの報道控え室が、異様な熱気に包まれていたのを今も覚えている。

 その年のドラフト。慶大の高橋由伸(現・巨人監督)が逆指名での巨人入りが決まっており、焦点は平安高(現・龍谷大平安高)の川口知哉の行方に絞られていた。エースとしてセンバツで8強、夏は準優勝に輝いた左腕だが、ドラフト前からオリックス志望。近鉄、横浜、ヤクルトも川口獲りを表明したが、川口はオリックス入りを祈り続けていた。果たして、怪物左腕の夢は叶うのか。当日、予想どおりにヤクルト、横浜、近鉄、そしてオリックスと4球団の競合となった。

「ヨッシャー」

 ドラフト会場に響き渡ったのは仰木彬監督の歓喜に満ちた声だった。相思相愛のオリックスがクジを引き当ててくれた。

 仰木監督には3つのゲン担ぎがあったという。まず、川口がサウスポーということから左手でクジを引いた。そして、ハサミを入れてもらった封筒を開くのは、ほかの3監督よりも遅かった。「野茂(英雄)のときも一番最後だったから」というのが、その理由。近鉄の指揮を執っていた89年のドラフトで8球団が競合した野茂を引き当てたときは8番目のクジだった。

 そして3つ目。仰木監督はクジを引く前に箱の中を見た。最初に4枚並んでいた封筒は、すでに近鉄・佐々木恭介監督が引いた後なので、残り3枚。一番右に少しスペースが空いていたので、佐々木監督は右端を取ったと確信した仰木監督は3枚の真ん中を取った。

「昨日は眠れなくて3度、目が覚めた。だから、『3』という数字にこだわって最初から右から3枚目の位置の封筒を取ろうと思っていた」

 ゲン担ぎは見事に結実したのだ。

 後日、川口をインタビュー取材するために平安高を訪れた。4監督がクジを引いたとき笑みを称えていたが、実際はどのような心境だったのかを聞いてみた。

「仰木監督がクジを引いて、開くまでの時間というのは、もう何とも言えなかったですよ。例えば野球だったら打ち取ろうが打たれようが、自分の力で何とかなるじゃないですか。だから、野球とは全然違う緊張感でした」

 さらに、言葉を続けた。

「最初に佐々木監督がクジを開いて、無表情にあたりを見回したんで、ああ、これは違うなと思いました(笑)。で、ちょっとホッとして、ひょっとしたら仰木監督が引いてくれるんちゃうかな、と期待しました。でも、あんなうまくいくこと、めったにないでしょう。例えれば4打数1安打。引き当ててもらえる確率は、ちょうど夏の甲子園の僕の打率と一緒なんですよ」

 10月26日に行われる今年のドラフト会議でも、クジによって運命が決められる選手が出ることが予想される。その裏に、果たしてどのようなドラマが描かれるのだろうか。

文=小林光男 写真=BBM
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