今年のドラフトでパ・リーグ最多となる8選手を指名したオリックス
10月26日に行われたドラフト会議。JR東日本の
田嶋大樹を
西武との競合の末に交渉権を獲得したオリックスの指名8選手は、“育成”と“勝利”の2つのテーマを見据えたビジョンが映し出されていた。
現有戦力に足りないものを補う。ドラフト最大の焦点が、1位指名に色濃く反映されている。現段階での先発ローテを当確者は、エース・
金子千尋、
西勇輝、
ディクソンの3本柱にルーキーながら8勝を挙げた
山岡泰輔。そこに、シーズン終盤に先発に再転向した
吉田一将、新人の
山本由伸が加わる格好と、その面々はいずれも右腕。左腕では
松葉貴大が奮闘も、勝ち星が伸び悩み、
山崎福也、
山田修義は結果を残せず。そんな中で、ドラフト会議前日に
長村裕之球団本部長が指名を公表したのは社会人NO.1“左腕”のJR東日本・田嶋大樹だった。
2位でも「1位で消える」と言われていた本格派右腕・
鈴木康平(日立製作所)の指名に成功。T-岡田、
吉田正尚らが並ぶ攻撃陣にはメドが立つだけに、投手陣の補強は重視したのだろう。
ただ、ポジションで考えれば手薄なのは内野も同様。レギュラーを張るのはベテランの
小谷野栄一、
中島宏之に、難病『潰瘍性大腸炎』を抱える
安達了一、今季、攻守で精彩を欠いた
西野真弘。彼らが欠くと戦力ダウンを余儀なくされるだけに、投手に続く補強ポイントが内野手と挙げられた中で、3位で巧打の内野手・
福田周平(NTT東日本)を指名と上位3人は、チーム編成のうえで正解だったと言えるだろう。
残るは育成面、すなわち“将来性”を重視した指名にシフト。星槎国際湘南高の右腕・
本田仁海、21歳の社会人捕手・
西村凌(SUBARU)を指名し、6位では近年、流動的なリードオフマンを将来、担えるポテンシャルを秘める明徳義塾高・
西浦颯大。ネームバリューにとらわれず、素材型を続々と指名した。
将来を見据えつつ、低迷打破へ即戦力の社会人を確保する一方、高いポテンシャルを秘める高校生も獲得。パ・リーグ最多となる指名8選手を社会人と高校生で占め、年齢、ポジションと、抜かりなく指名できた収穫は、
福良淳一監督が「1位が取れたのは大きい。2位以降も予定どおり」と納得の表情が物語る。
とはいえ、ドラフトの成功は“指名”で終わってはならない。昨年も今年同様、2つのテーマを掲げていた。だからこそ、獲得した選手が主力となり、12球団でもっとも遠ざかる1996年以来のリーグ優勝を遂げて、初めて“成功”の評価が下される。
冒頭で記した大きな2つのテーマ。その育成の面は二軍に限らず、即戦力で加入し一軍でプレーする選手たちにも言えること。入団後、どのような起用で育成プランを練るのか。現段階で“納得”のドラフトを数年後“成功”へと変えるために。あとは現場の手腕が、今ドラフトの成果を決める。数年後の評価は果たして――。
文=鶴田成秀 写真=BBM