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【大学野球】神宮大会で高橋監督に恩返しを誓う東洋大の四番・中川圭太

 

仲間の肩を借りて表彰式に向かった東洋大・中川(右)。東都大学リーグ春秋連覇の喜びと同時に、自身への不甲斐なさから悔し涙も混在していた


 春秋連覇――。11月4日、歓喜で沸く東洋大ナインの中で一人、悔し涙を流していた。三塁ベンチ裏で治療を受けていたのは、四番・中川圭太(3年・PL学園)だった。

「優勝はうれしいですが、最後まで出場できていない。まだまだ、チームの皆に助けられている。皆のお陰です」

 勝ったほうが東都大学Vの亜大3回戦。中川は試合中盤から右太もも裏に異変を感じていた。4対3で迎えた9回表。二死三塁で四番に回ってきた。

「チームが勝つために、何とか1点」

 右の大砲はフルスイングしたが三ゴロ。

「打った瞬間に激痛が走った」

 つった右足は完全に肉離れの状態となった。

「気合。走らないといけない……」

 一塁到達時にはもう、動けない。

 抱えられるようにしてベンチへ戻ったが、中川は引き下がるつもりはなかった。しかし、高橋昭雄監督はすでに、交代を告げていた。その裏、東洋大は亜大の反撃を抑え、中川は本来いるはずの二塁ではなく、ベンチで幕切れを迎えた。涙は優勝の喜びに加えて、自身への不甲斐なさも混在していたのだ。

 今秋のリーグ戦開幕直後、中川は高橋監督に呼ばれた。

「この秋で(監督を)辞めるから。皆には言うなよ!!」

 シーズン中も2週間に1回、指揮官とヒザを突き合わせた。

「チームメートも薄々は(勇退すると)感じていたはず。監督の口から遠回しで話すこともあり、自分からは何も言えないですし、バレないといいな、と思って見ていました(苦笑)」

 亜大3回戦前日、この段階で初めて高橋監督から退任報告があったという。負けるわけにはいかない。

「責任を自分に背負わせてくれた。引っ張っていってほしい、という監督からのメッセージだったと思っています」

 中川は1年春から起用され、将来の大砲として英才教育を受けた。中川は2018年のドラフト上位候補。「優勝して監督に花道を飾ってほしい」と考えていたのと並行して「今の4年生には本当、お世話になった。入学したときは二部で、2年春に一部に上がって、3年時は優勝争い。そして、この春一部で優勝できた。感謝の言葉しかみつかりません」と、この亜大3回戦にすべてをかけていた。2回表、先頭打者として左越えの二塁打を放ち、先制のホームを踏んでいる。9回に途中退場したとはいえ、主砲・中川の貢献度が色褪せることはない。

 神宮記者席裏で共同記者会見が行われている最中、中川と三塁ベンチに座って話をした。傷む右足をさすりながら言った。

「あとはやるだけですから」

 11月10日には明治神宮大会が開幕し、東洋大は12日に初戦(富士大と大商大の勝者)と対戦する。リーグ優勝から8日後に控える全国大会。患部(右足)のコンディションは決して芳しくないように見えたが、中川に欠場の二文字はなく「全力でプレーし、監督に恩返ししたい」と力強く語る。名門・PLで培った不屈の精神力はさすが、としか言いようがない。

 中川はこの3年間で、高橋監督から教わったことを思い返した。

「お前が打てないと、勝てない!!」

 技術ではなかった。すべてはメンタル部分。四番としては、これ以上の期待はない。

「チームを引っ張っていけ、という信頼を感じました。任せられているんだな、と」

 東都代表として出場する神宮大会、どんな姿でグラウンドへ戻ってくるのか、中川のバットから目が離せない。

文=岡本朋祐 写真=黒崎雅久
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